ことば

COLUMN

「わが街わが友 赤坂3」東京新聞 2010年11月30日付朝刊

<劇を行うにふさわしい者はこの世に存在しない。存在するのは、ただ現実に生活に適さない面を持った者たちである>

劇作家・太田省吾の言葉である。

ぼくは、この言葉に魅かれ、彼に会いたいと思った。

「では赤坂の工房に来てください、そこでお話をしましょう」

 

赤坂なんて一度も行ったこともない場所だった。

地下鉄・赤坂見附下車徒歩15分、地図を片手に劇団転形劇場を目指した。

華やかな通りを抜け、旧TBSの脇道を上がって行くと三分坂という急坂があった。

今度はそれを一気に下り、二本目の角を右に入ると劇団の工房があった。

そこは都会のイメージとは程遠い、高度経済成長からも置いてけぼりを喰らったような場所だった。

小さな民家が密集し日当たりも良くない、そこの一角に古い二階建てのアパートがあり、その一階が劇団の工房だったのだ。おそらくアパートの六部屋ぐらいをぶち抜いた状態だったと思う。中は黒一色に塗りつぶされていた。

 

「あの、太田さんにお会いしたくて電話しました大杉と申しますが」

長髪の大きな男の人がヌウーと現れた、そして「ああ、太田です」と囁くように言った。

「入団試験はありませんが、三年我慢できますか」唐突に聞かれたので「わかりません」とだけ答えた。

 

帰り際ふと顔をあげると、太田さんの背後にぼくを見ている十数人の劇団員の目があった。

彼らも現実の生活に適さない者たちなのか。

22歳のぼくは、太田省吾の言葉と出会い、演劇の戸口に入る決意した。

上京して五年、やっとこの東京で自分の意志で出かける場所を見つけた。

そこが、ぼくの居場所になったのだ。