ことば

COLUMN

ハモニカの味 第5回「エキストラな目」

今回は、ぼくが出演した二本のテレビドラマについて……。

その一本。毎日放送五〇周年記念ドラマ「ごきげんいかが? テディベア」。脚本・監督は、藪内広之。撮影は、兵庫・淡路島と大阪。これぜん全編オールロケーション!

タイトルからして、甘くて軽いドラマを想像されるかもしれないが、これがどうしてどうして、せつないドラマなのだ。〈脳死〉と宣告された母を亡くし、それをきっかけにして引きこもりになってしまう娘(山田花子)と父親(大杉)の心の迷いを実にていねいに描いた作品だ。

脚本を読んで驚いたのは、数十人も出演するキャストのなかでプロの俳優がわずか六人、あとは素人の方に出演していただくとのこと……もうこれだけでもワクワクものだ。実際ぼくが共演させていただいたのは、本物の住職さんや看護婦さんや多くの淡路島在住の方々だった。エキストラを仕事としている方ではなく、〈そこの住んでいる本物〉の方たちとの芝居は、実験色の強い刺激的なものだった。「ヨーイ、スタート!」という監督の掛け声もなく、段取りだけが決まれば、カメラが静かに回り始める。そこでなにを喋るかは、やってみないとわからない。俳優としてそこにいるのではなく、まさに〈淡路島在住の引きこもりの娘を持つ父親〉がそこにいたのだ。

そして、もう一本。NHK「つま恋」。脚本・井沢満、監督・片岡啓司。

ある日突然、妻(松坂慶子)が〈若年アルツハイマー〉にかかり、見知らぬ男と失踪してしまう。その失踪場所は、ネパール。夫(大杉)は、首都カトマンズまで妻を捜しに出かけて行く……。

本来ならば六月にこのドラマは撮り終えているはずだったのだが、その出発当日、ネパール王室で事件があり延期されていた。しかし、幸運にも撮影が出来ることになった。ぼくたちは、再開の喜びと緊張感を持ちつつカトマンズに入ったのだ。

初日、巨大寺院の横にあるホテルでの撮影。ワンシーンを撮り終えた後、ネパール人と日本人スタッフの汗だらけの笑顔がそこにあった。そう、危惧はすぐに消えていった。

動物の糞が、通りのいたるところにあった。川岸では、死んだ人が火葬されていた。咳き込むほどの排気ガスが、街を覆っていた。しかし、人々はどこまでも心温かく、その目は輝いていた。

ここでもぼくは、多くのカトマンズの方たちと〈即興の時間〉を演じた。

この三ヵ月、淡路島からネパールまで……怒涛のような濃い時間が過ぎていった。過ぎていったことを〈今〉になって体験している思いなのだ。

そこで生活している〈普通の目〉の何気なさや怖さや慈しみについて、ぼくは考えている。(文中敬称略)

 

・「音楽と人」2001年10月号掲載