ことば

COLUMN

ハモニカの味 第3回「猫と監督」

テレビ局から「FIFA・コンフェデレーションカップ KOREA/JAPAN2001」のゲストとして出演の依頼があった。

ぼくは、サッカーが好きだ。高校の部活から数えて三十五年、現在も草サッカーチーム〈鰯クラブ〉でプレーしている。日頃の不摂生何処吹く風と言わんばかりに少々大げさを許していただくとすれば、命を張ってピッチに立っている思いだ。イレブンからは〈不動の10番〉と呼ばれ、その意味はと言えば文字通り〈動けないCF〉として迷惑をかけまくっているのが現実だ。しかし、みっともなくてもいい、どんなに衰えてもぼくは一生ボールを蹴る覚悟でいる。そう、ぼくは単なるサッカー好きのオヤジなのだ。そんな男にゲストとしてなにができるというのか。

「サッカーの専門家でもないし、純粋に日本代表を応援することしかできません。ひとりのサポーターとして番組に参加させていただくなら……」「ええ、それでいいんです」ということだったので結局やらせていただくことにした。

初戦は、新潟スタジアム・ビッグスワン(すばらしい競技場)での対カナダ戦。司会のジョン・カビラさんや内田アナウンサーの力強い助言をいただきつつ、放送ブースで生本番を待った。と、その時だ。彼は突然現れた。

「ハロー! ナイストゥミーチュー」

おいおい、ベンゲルさんが僕に挨拶をしてくれているではないか。おまけに握手まで……そして、何気にぼくの横に坐ったのだ。ということは、生放送のゲストはベンゲルさんとぼく!?

なんという取りあわせなのだろう。ベンゲルさんは、世界的にも指折りの名監督。かたや単なるサッカー好きのオヤジ俳優。緊張するなというのも無理無理。ましてや普段の映画やドラマの撮影現場とは違う空気のなかで、ぼくの血糖値は沸点を超えていたのだ。放送中、ベンゲルさんの言葉には、現場で過ごしている男の凄みを感じるばかり……ぼくはと言えば、聞き分けのいい子供のようにうなずくばかりであった。

試合(生放送)は終わった。結果3‐0日本完勝。

別れ際にベンゲルさんはこう言った。

「大杉さん、イングランドに来ることがあれば是非アーセナルに来てください。席は用意しますから……それから、ぼくは以前から大杉さんを知っています。北野さんの『HANA-BI』という映画をフランスで観ました。そして、泣きました」

映画が繋げてくれたささやかな心の触れ合いに感謝した。

以後、決勝戦までの全五試合。ぼくは〈背筋の伸びきった借りてきた猫〉状態であったのは言うまでもない。ビバ・サッカーなのだ!

 

・「音楽と人」2001年8月号掲載