ことば

COLUMN

第7回「うだってますかぁ」

どうなってんだ、今年のこの暑さは!

〈ヒートアイランド現象〉なんて、小洒落た言い方をしているが、本当はもの凄く恐ろしい時代に入っているのではないだろうか。この国は、すでに〈熱帯化〉していると言っても過言ではない。昔、シベリアに抑留され捕虜になった人が、異常な状況がずっと続くと異常なことも異常だと感じなくなり、非日常も日常化するのだと語っていたことを思い出す。異常気象も日常化するとただの〈普段〉になってしまうのだろうか!

 

ええっと、あっそうか、さあ、そろそろ今月の本題に入らないと。

先日、久しぶりに友人・田口トモロヲ君のライヴに出かけた。

トモロヲ君は、80年代にパンク・バンド〈ばちかぶり〉のボーカリストとして、その後、塚本晋也監督『鉄男』やSABU監督『弾丸ランナー』に出演していた大好きな俳優である。あの「プロジェクトX」のナレーション(声)をやっている人と言えば、お分かりいただけるだろうか。

ほとんどの方が知らないと思うが、トモロヲ君とぼくはユニットを組んでいる。ユニット名「ハージー・カイテルズ」名付け親は、映画評論の塩田時敏氏だ。二人ともハーベイ・カイテル(あの名作『SMOKE』の主演俳優)が好きで、同時にぼくたちは、いつも撮影現場で恥ばかり掻いているのでそんなユニット名になったのだ。結成して四年になるが、実際のところ、活動らしきことは数えるばかりだ。主なる活動は、下北沢あたりの薄暗き酒場でこつこつ呑むだけといったところだろうか。

「いつかさぁ、ライヴとか舞台とか……やりたいよね」

その場では、ふたりで盛り上がるのだが、なかなかお互い多少の忙しさを抱えているものだから、実現しないでいる。だからといって、ユニットを解散する実績も理由もどこにもない。もしかしたら、将来ものすごいユニットになる可能性だってあるのだ。だから今は、敢えてダラダラし続けているのが大切だと感じている次第だ。

そんな相棒・トモロヲ君のライヴ。都内・某所。いやいや満員だ。

〈ばちかぶり〉のベースの人は、現在は会社員なのだろうか、サラリーマンスーツで舞台に立っている。逞しき中年になった今も〈パンク〉する姿のなんとかっこいいことか! 普段は物静かなトモロヲ君も、いったん舞台に立つと全く違う人になってしまう。観客もノリノリ(こんな表現でいいのだろうか)状態。

その時、横にいたトモロヲ君が所属する事務所の社長・太田さんが、ぼくにこう言ったのだ。

「大杉さん、ここのライヴハウスは、下半身を出すこともダイヴ(観客の中に飛び込むこと)もすることも禁止されているから、今日のトモロヲさんはちょっとおとなしめ……」

「ああ、そういう制約があったりするんですか」

「ええ、そうな……ぁぁぁあああ……」と、太田さんの雄叫び。

舞台では下半身野晒し状態のトモロヲ君が、ラッコちゃんのように楽しそうに客席にダイヴしているではないか!!

「うだってまんこぉぉぉ」

太田さんは、諦め顔で微笑んでいた。理屈のない楽しき夜だった。

 

ライヴハウスの外に出ると、墓標のように屹立する高層ビル群が、陽炎の中に見えた。

うだってますかぁぁ!

 

「音楽と人」2002年10月号掲載