ことば

COLUMN

第8回「戦う背中」

ここ一ヵ月あまり、ぼくの仕事は移動の日々だった。

それは、決してゆるやかな移動ではなかった。起きている時間の1/3は、なんらかの乗り物で移動していたであろうか。朝ホテルで目覚め「ここはどこ、エエッ! お城が見える……ぼくは何故こんな場所にいるの?」。そんな状態だっただろうか。事務所のT女史からも「あっ、大杉さん……生きてますか? あと少しですから生きててくださいね!」などと能天気な愛ある電話をもらったりした。しかし、妙なものでそんな尋常じゃない状態にもかかわらず、〈疲れきった身体〉とは裏腹に、いつもより〈張り切った精神〉がいたりしたのも事実だったのだ。人とは、やっかいな生きものだ。

そしてぼくは、2002年秋……いまだ元気に過ごしている!

 

さて、今回もこのグレートな写真たちをみてやってくれぇぇ!!

もっと小出しにしようと思ったのだが、後先なしの太っ腹ということで一挙公開ということにしました。

山崎努さんがいる。

数年前にテレビドラマで初めて共演させていただき、俳優としての存在の深さや幅に「いやぁ、凄い」としか表現できなかった記憶がある。本当は現場でいろんなお話を伺いたかったのだが、どこから切り出していいのか分からず、ただただ傍観している〈控えめなぼく〉がそこにいたのだ。

それ以降、立て続けに三本の映画でお会いできることになろうとは……行定勲監督「GO」、崔洋一監督「刑務所の中」、そして先日クランクアップした長澤雅彦監督「13階段」。

左の写真は、その「13階段」の現場写真だ。その日の撮影は、関東近郊の「某沼地」。今回の作品では、そのほとんどが山崎さんとからむシーンだったものだから、ゆっくりとお話を伺うことが出来た。あの日の控えめなぼくから〈前向きな取材者〉のように変化していたのは言うまでもない。

「山崎さんは、普段はどうされているのですか」

「ウーン普段ね……まぁ昼から本を読みながらビール飲んでさ……あとブラブラ散歩したり……大杉さん、いくつ?」

「えっ、今年51です」

「51かぁ……まだまだ元気でやれる年だなぁ」

なんでもない会話が、至福とともに長い時間続いた。しかし、そのひとつひとつの言葉には、彼が俳優として味わい感じ得た〈大きく深いリアル〉があった。

孤高の人にはなれないけれど、孤独を楽しめる人でありたい……瞬間、こんな言葉が浮かんできた。

一人舞台での初日の開演30秒前、ご自身がどんな気持ちだったのか……これまで演じた役にどんな風に向き合ったのか……映画は……その俳優は……。

「あっ、山崎さん。お願いします」

 

助監督さんが、準備ができたので現場にと声をかける。

 

「はいっ」と低く答える山崎さん。なにかの気持ちを鼓舞するかのように小さく腿を叩き、椅子から立ち上がった。

 

撮影現場に向かう彼の先に大きなライトが照らされていた。逆光に山崎さんのシルエットが浮かぶ。戦い続ける俳優の背中がそこにあった。

 

結局徹夜状態のまま、ぼくはクランクアップした。家には戻らず直接羽田空港に向かわざるをえなかった。その日、徳島で上映会とライヴ「ゴンタクレの夜」がある日だったのだ。