ことば

COLUMN

第20回 「MISOG-S」

怒濤の夏の過ぎて、この秋はゆっくりと仕事に向かえるかなと思っていたら、イヤイヤ甘かった。年末までにドラマ・映画そしてトーク番組・学園祭と、スケジュールは、限りなく黒くなっている。親に薦められて嫌々塾通いを始めた子供のように「たまにはめいっぱい遊ばせてくれよ」とほざいてみる……というわけで当分〈セリフ覚えの日々〉は続きます。

ぼくは時折こんなこと考える。

〈死ぬまでにどれだけのセリフ(言葉〉を覚え、どれだけのロケ弁当を食べるのだろうか〉、そしてそれら膨大な言葉たちや弁当箱は、ぼくになにを与えてくれるのかと。

 

〈MISOG-S〉!

ミソジーズと読んで欲しい。別に新しく作ったバンド名ではない。

ぼくは、高岡事務所というこじんまりしたプロダクションに所属している俳優だ。代表は高岡陽子さん。長いつき合いになるが彼女が一体何歳なのか、ぼくは知らない。彼女も言わないし、ぼくも聞かない。ただ1970年代について殊更詳しいということ、文学座で松田優作さんと一緒だったらしいこと、そして沢田研二さんの超熱狂的ファンであるということから、それなりの推測はつく。そりゃぁつくよね。

高岡事務所には、現在高岡さん含め四人のスタッフがいる。その全員が女性なのだ。

別に女性限定にしているわけでもないのだが、結果そうなっている。

デスクが青野美樹さん。マネージャーに鈴木和美さん、そして大杉担当の大輪和美さんだ。

彼女たちがいるから、所属俳優五人は日夜がんばることが出来るのだと言ってもいい。

その青野・鈴木・大輪が、今年見事に揃って三十歳になった! なってしまったのだ!

「ええっ、三十~歳! ああ三十かぁ……」

「まあね、いつかは来るもんなんだから……そういうことなんだから」

「結婚どころか、彼氏もいない、ああぁ、将来……」

なんて、どうやら様々な思いを日々巡らせているらしい。

そんな彼女たちが2003年秋に結成したのが、〈MISOG-S〉なのだ。

つまり〈三十路~ず〉。ある種の敬意と逞しさと畏怖を感じつつ、この「ゴンタクレが行く」に記録しておきたいと思ったのだ。

 

青野美樹、三十歳・埼玉出身・独身。

ぼくのホームページに仕事の告知をしてくれている〈高岡事務所・A〉は彼女のことだ。ただ、Aとは青野のAではなく、その風貌からアンパンマンのAであることをここに付記しておく。以前、ぼくの現場に行く車中で「ああ、男が欲しい」というため息のようなつぶやきをぼくは聞き逃していないし、デスクには、ぼくの写真ではなく〈笑顔のスガシカオさん〉が貼ってあることを見逃してはいない。

鈴木和美、三十歳・島根出身・独身。

去年から高岡事務所に参加してくれたのだが、マネージャー歴は長い。現在、「引越のサカイ」のCMに出ている徳井優さんの担当をしている。ソフトボールで鍛えた身体は、全身これ筋肉。現在もジムで自らの身体を痛めつけている。先日、トレーニングオーバー、つまりやりすぎで背中の筋を切ったらしい。笑うととても愛嬌があって、目がなくなってしまう。

大輪和美、三十歳・徳島出身・独身。

三年前の徳島ライヴで友人の紹介で知り合い、現在大杉の現場マネージャーを担当してくれている。普段は、ぼくと純粋な阿波弁で話している。家族よりも長い時間、彼女と過ごしているのだが、すごい体力の持ち主だと感心している。シンガー・平井堅さんの大ファンであり、噂によると掛け布団が平井堅さん、枕カバーが妻夫木聡君になっているらしい。つまり、平井さんや妻夫木君に包まれて寝ているということだ。「じゃぼくは?」と聞くと、「大杉さんは、玄関マットあたりでどうでしょう!?」と言われる。

 

どうだろうか、これが〈MISO-S〉の全容だ。

ぼくが〈現場者〉として過ごせるのは、彼女たち四人がいるからだ。

ぼくは、ひとりで生きているんじゃあない。しかし、ひとりであることを成立させるためには、その背後にいる多くの人たちの支えや叱咤激励が必要であることを忘れてはならないのだ。

マニファクチャー・高岡事務所は、ぼくのもうひとつのファミリーなのだ。

 

「音楽と人」2003年11月号掲載