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COLUMN

俳優・大杉漣が選ぶ③ あの映画のこのシーン『SMOKE』

これは地味な映画だ。

しかし、ボクシングでいうボディー・ブローのようにじんわりと効いてくる。

主演はハーヴェイ・カイテルとウィリアム・ハート。どちらも大好きな俳優だ。

小品には違いないが確実に人間が描かれている。

ブルックリンに煙草屋を営むオーギー(カイテル)は、4000日休むこともなく同じ場所・時間に店前の風景を撮り続けている。

まるで撮り続けることにこそ意味があるかのように…。

ポール(ハート)は、その膨大な写真の中に死んだ妻が写っているのを発見する。

言葉は少ないがこのときのふたりの表情は秀逸だ。

それを上回るのが終盤、オーギーがそのカメラの入手過程をポールに告白する場面。

その内容はエピローグでモノクロに再現されるのだが、慈悲、愛…僕からは遠い言葉が浮かんでくる。

煙草は毒だ。しかし、人は時として″毒″を身体に入れてみたくなるものだ。

この映画に出合えたことに感謝。

 

・小学館「ドマーニ」2000年掲載

 

『Smoke デジタルリマスター版』

監督:ウェイン・ワン 脚本:ポール・オースター

出演:ハーヴェイ・カイテル、ウィリアム・ハート、ストッカード・チャニング

ハロルド・ペリノー、フォレスト・ウィテカー、アシュレイ・ジャッド

発売元:ポニーキャニオン https://www.ponycanyon.co.jp/visual/PCXP000050540