これは地味な映画だ。
しかし、ボクシングでいうボディー・ブローのようにじんわりと効いてくる。
主演はハーヴェイ・カイテルとウィリアム・ハート。どちらも大好きな俳優だ。
小品には違いないが確実に人間が描かれている。
ブルックリンに煙草屋を営むオーギー(カイテル)は、4000日休むこともなく同じ場所・時間に店前の風景を撮り続けている。
まるで撮り続けることにこそ意味があるかのように…。
ポール(ハート)は、その膨大な写真の中に死んだ妻が写っているのを発見する。
言葉は少ないがこのときのふたりの表情は秀逸だ。
それを上回るのが終盤、オーギーがそのカメラの入手過程をポールに告白する場面。
その内容はエピローグでモノクロに再現されるのだが、慈悲、愛…僕からは遠い言葉が浮かんでくる。
煙草は毒だ。しかし、人は時として″毒″を身体に入れてみたくなるものだ。
この映画に出合えたことに感謝。
・小学館「ドマーニ」2000年掲載
『Smoke デジタルリマスター版』
監督:ウェイン・ワン 脚本:ポール・オースター
出演:ハーヴェイ・カイテル、ウィリアム・ハート、ストッカード・チャニング
ハロルド・ペリノー、フォレスト・ウィテカー、アシュレイ・ジャッド
発売元:ポニーキャニオン https://www.ponycanyon.co.jp/visual/PCXP000050540