ことば

COLUMN

第37回 「大杉風」

吹越満さん・広田レオナさんご夫妻と親戚になった。

なにを唐突にとお思いだろうが、唐突に事が進み結果そうなってしまった。

 

事の発端はこうである。

寒風吹き抜ける京都松竹撮影所で京極夏彦原作・堤幸彦監督「巷説百物語・孤者異(こわい)」の撮影があった。主演の渡部篤郎さん・小池栄子さん・吹越満さん・そしてぼくの四人が初めて揃った日のことである。初日には、独特の緊張感と奇妙なテンションがある。現場によってその温度は違う。ぼくは〈現場のムードメーカー〉などとよく言われることがあるが、正直それは現場のためだけではなく自分のためにもそうしているのだ。だから、はしゃぐ時もあれば殆ど喋らない時もある。現場の〈空気を読む〉とでも言えばいいのだろうか……そしてぼくは言った、あえて言ってみた。

「〈悪魔のぬいぐるみ〉って知ってる」

「えっ、なに?」と小池さんが聞く。

「だから……悪魔のぬいぐるみ」

それに対する、渡部さん・吹越さんの反応は鈍い。というか、ぼくのいきなりな質問に「なにを言い出す大杉さん!」という顔だ。

「悪魔のぬいぐるみってあるじゃない。その悪魔を〈あ・くま〉と切って言うと、さてどうなるでしょう」

小池さんが、口でモゴモゴ言っている。

「ねっ、わかった。面白いでしょ、〈あ、熊のぬいぐるみ!〉。続けて言うと〈悪魔のぬいぐるみ〉……すごいよねぇ」

小池さんは鼻で笑った、渡部さんは微動だにせず、吹越さんは目を泳がせた。

「これ、ぼくが今やっている連ドラの子供たちに教わったんだよね、最初なんのことだかわかんなかったんだけど……理解した時は可笑しくてイヤイヤ笑った笑った」

結果その場で笑っていたのは、ぼく一人だった。そういえば以前「スペース・トラベラーズ」という映画で共演したガッツ石松さんが、「ホットコーヒーを飲むとホットする」となにか事あるたびに言っていたことを思い出した。その時の彼も最後は一人で笑っていたっけ。空気を読むどころか、空気を濁してどうする。

 

さてと、本題です。

吹越家となぜ親戚になったのか、これを書くためにこうやって〈午前三時の男〉になっているのだ。すべてが寝静まったこんな時間まで煙草の山を作り精魂込めて一文字一文字刻みつけているんだぁぁぁ……さぁ早く書こう、そしてとっとと寝ようっと。

「大杉さんは、なにかペット飼ってます?」。吹越さんは言った。

ペット? そう言えば昔、小林旭さんが〈あの子をペットにしたくって〉って唄っていたっけなぁ……イヤイヤ今はそれが問題なのではない。

「ええっとペットですか。今は〈十姉妹のアイちゃん〉が一羽いますけど……」

実は去年の五月までは〈インコの群ちゃん〉がいたのだが、突然死んでしまった。死ぬ間際まですこぶる元気に過ごしていたのに、普段広げることのない羽根を眼一杯開いてまるで空に飛び立つかのように死んでいった。お喋り好きの群ちゃんは、わが家で10年一緒に過ごした。インコとしては大往生らしい。

「うちは犬を飼っていましてね。つい最近子供生んだんです。4匹も……」

「あの吹越さん、その4匹の子供たちはどうするんですか。もし、決まっていなければぼくの家で飼わせていただけませんか」

なぜかわからない。なぜそんなことを言ったのか、その瞬間まで犬を飼おうなんて思いもしていなかったのに……吹越さんにそう言ってしまったのだ。

吹越さんは、早速東京に電話を入れてくれた。

「あと一匹は決まっていないので、大杉さんさえよろしければどうぞ」

彼のご家族にも了解を得ていただいたのだ。

あの寒風の京都松竹撮影所で吹越満さんと出会わなければ、ぼくはこの先も〈犬を飼う〉ことはなかったと思う。

 

2005年2月11日、その日はやってきた。ぼくは女房と吹越家に出向いた。ご家族全員が出迎えてくれた。

「大切に育ててやってください」

「わかりました。ありがとうございます」

母犬・ユキちゃんはこれから出家するわが子の事情を知っているかのように落ち着かなく動いていた。きっと吹越さんもレオナさんも娘を嫁に出す親の心境だったと思う。大切にお預かりします!

そして現在、わが家には体長20cm・体重525gのチワワがいる。これから何年も一緒に過ごすことになる家族の一員だ。

「吹越さん! 元気にしてますよ。よく遊ぶし食欲旺盛……ただ、話しかける時、ぼく〈赤ちゃん言葉〉になっているんですよね」

「ああっ大杉さん、ぼくもそうですから……よろしくお願いします」

名前は、大杉風という。〈フウちゃん〉と呼んでまちゅ。

 

「音楽と人」2005年4月号掲載