ことば

COLUMN

第40回 「翔びます・翔びます」

ここ一ヵ月あまりゆっくりした時間を過ごしている。というのも少し長丁場の映画をやっているからだ。作品名はいずれまた。ゆったりと一日ワンシーンという日もあり、日頃とは違った時間を過ごしているのだ。

 

某日、オフ。天候とめどなく晴れ。

ここからはぼくの頭の中の言葉、つまり〈独白〉です。

 

おいおいオフだよ。すげぇいい天気! こんな日は朝からゆったりとコーヒーを飲みながら新聞でしょ。ゆっくり新聞を読むなんてマジひさしぶりぃ。うわぁなんだよ、すげえチラシの量、ひときわ目がいく家電量販店のデカチラシ、そうだこの店のポイントもだいぶ貯まっているし自転車でプラっと行ってみるかなぁ……ええっと今日はと土曜か、えっ土曜日? ……ということはサッカー……Jリーグ! そうだよなあ、テレビでは観戦しているけどここのところ〈生観戦〉してないよなぁ。ええっと2時からかぁ……なになにJ2もやるのかぁ! ええっとわが故郷〈徳島ヴォルティス〉はと……2時前橋? 前橋って群馬県だよなぁ。今年やっと念願のJに昇格してまだ一回もヴォルティスの試合を生で観てないしなぁ……だってオイラ、ヴォルティスのゴールド会員なんだから……応援行きてぇ! ましてや相手チームはやはり今年Jに昇格したオイラの中でもかなり好感度の高い〈ザスパ草津〉なんだから……よし行こう、前橋に行こう!

 

早速パソコンで前橋までの行き方を検索した。新宿から埼京線で大宮、大宮から新幹線で高崎、高崎から前橋までは両毛線で前橋、そこからはタクシーで試合会場へ……約3時間の小旅行。

 

自分で切符を買うなんて本当久しぶり、ちょっとドキドキワクワクした。同じ電車に乗り合わせた一人一人にこう言いたかった。「オイラねぇ、これから徳島と草津のJ2の試合観に行きますねん!」。朝からモチベーションの高い自分がおかしかった。実際途中何人かの方に声を掛けられた。聞かれもしないのに「これからサッカー観戦なんですよぉ」と答える自分がいた。「前橋まで……へぇサッカーお好きなんですねぇ」とあきれ顔で言われても、ぼくには褒め言葉として届いていた。

 

前橋・敷島公園ラグビーサッカー場に到着したのは13時50分、14時キックオフ。理想的な時間だった。

 

もちろんホーム(草津)の席ではなくアウエー(徳島)のチケット席を購入、会場内に入った。どこのスタジアムもそうだが、Jリーグの理念として地元と密着した形で運営されている。ここザスパ草津も沢山のボランティアの方が〈おらがチーム〉のためにお手伝いをされていた。

 

「ああっ、大杉さん……大杉漣さんですよね」

気の良さそうな男性スタッフの方から声をかけられた。

「ああっ、はい」

「いやぁ、観に来てくださったんですか。ありがとうございます! あっ、ちょっとお待ちください」

ピッチには選手が並び始めている。ぼくは早くアウエーゴール裏のサポーター席に落ち着きたかった。

「いやぁ大杉さん、これっザスパ草津のグッズです。どうぞこれからも応援よろしくお願いいたしますぅ!」

「いやぁぼくは……その…」

「本当にありがとうごさいました。これからもよろしく!」

オイラのことを草津のサポーターだと完全に思い込んでいる。彼の純朴な態度を前に「ぼくは徳島ヴォルティスの応援に来たのです!」と言い出すことは結局出来なかった。相手チームのグッズを抱えながら席に急いだ。当初は徳島のサポーター席に行くつもりだったが、彼への配慮もあり結果ものすごく中途半端なバックスタンドの隅っこの超目立たない席に腰をおろすことにした。それでもやはり試合は楽しかった。0―2で破れはしたが、その瞬間に立ち会っている自分が嬉しかった。〈見る前に翔べ!〉なぜかギンズバーグの言葉を思い浮かべている自分がいた。

 

帰りの新幹線での独白。

「あれっ今日……確か今日じゃなかったっけ……良さんのライヴ?」

すぐに確認、やはり今日だった。加川良さんのライヴが埼玉の川口であるのだ。急いで東京に帰ることもない。よし行こう、これから川口に行こう! キューポラのある町、あの川口に行こう!

 

生まれて初めて降りた駅だった。徒歩15分の瀟洒なカフェでのこけら落としライヴ。もちろん予約もしていない。運良く当日券をゲット。超満員の中、淡々と唄う加川良さんがいた。決して過剰な表現はしない〈唄い人〉の凄みがそこにはあった。

家にたどり着いたのは、その日の深夜だった。都合6時間の電車を乗り継いでの小旅行。

仕事とは違う疲労があった。〈見る前に翔べ!〉か……そうだよなぁ、翔べるうちに翔んどかないと翔びたくても翔べなくなる日がいつか来るんだよなぁ……それが明日かも知れないし。オイラの心境は限りなく坂上二郎さんになっている。

〈追記〉その後、京都・湘南と徳島ヴォルティスのアウエー試合を観戦。生観戦でまだ徳島勝利を味わってはいない。地元徳島でのホーム観戦を目下画策中! 大杉、翔びます!

 

「音楽と人」2005年7月号掲載