ことば

COLUMN

第50回「ああ気持ちよかった」

ライヴが終わって、二日目の東京での朝。

唄い叫び、のどの奥が切れているのだろう、声がかすれてしまい少し痛い。今なら和製トム・ウェイツになれるかもしれない……なんてね。

ライヴへの緊張感から解放されたということもあり、ホッとしたのだろう、ものすごく疲れている。身体のあちこちが筋肉痛になっており、頭もクリアーに動かない。幸いにも今日はOFFということもあり、一日中ウトウト状態。電話だって今日だけは居留守だぜ。いゃあ、こんな日もいいものだ。とにかくダラダラしよう、ああ美しきダラシのない一日! やらなきゃあいけないことはヤマほどある。しかし、そんなヤマに登りたくない時だってあるってもんだ。外では春の嵐が吹き抜けている。東京にも桜が咲く時が訪れるのだろう。

とにかくライヴは終わりました!

 

2006年3月18日、徳島。

朝一番の飛行機で徳島へ。すぐに母親の入院している病院に行く。しばしの間、二人きりの時間。年老いた母、「上映会とライブにも行きたかった」と言う。そしてぼく、「元気になったらいつでもおいで」と言う。ベッドの母の顔が、ぼくに見えた……親子なんだよね、当たり前のことが特別のことのように感じられることもある。「あんまり無理せんとボチボチやり……身体が一番や」と寝たきりの母に言われる。

 

昼から上映会。

映画「Life on longboard」徳島初公開。

毎年一本、インディーズ系の作品を選んで上映させてもらっている。地味だが、続けられる限りやっていきたいと考えている。今年はいつも以上に全国から多くの方が駆けつけてくれ大盛況だった。小さい町のたった一人の映画祭。終演後、地元の方に声をかけられる。「漣さん、ありがとな。久しぶりに映画観て楽しかった」……シンプルな感想がぼくの心を打つ。イヤイヤ感謝しなければいけないのは、ぼくの方です。

 

上映会を終え、冷たい雨の中ライブ会場・徳島ホールへ。

ホールではゴンタクレ実行委員(ライヴの主催者)のメンバーが慌しく準備をしていた。

「大杉、喜んでくれ。今日、ギューギューになるでぇ」

いい感じでリラックスしているバンドメンバーもすでにスタンバイ、とり急ぎリハーサルをやった。

「漣さん、リハーサルはすこし抑え気味にしてくださいね」

ギターの堀尾和孝さんからの暖かい助言。以前、リハーサルで力入れすぎて咽喉をクラッシュしたことがある。プロと素人の違いはこんなところにもあるのだろう。だって力の抜きどころがわからないんだから……。

 

すべての準備は整った。あとはやるだけ……ほな行こかぁ!

この日までぼくの出来ることはやってきたつもりだ。撮影の合間でのひとりだけのスタジオ練習。正直、うまくなりたいと願い続けていた。しかし、ぼくの進歩なんてカメさんよりも遅かった、自分へのいらだちの日々……気楽にいきゃあいいんだぁ素人なんだから……なんの説得力もない後ろ向きの言葉たち。これを最後にライヴなんてやめよう、そんなことしなくても生きてはいける……苦しみたくなかったらやめりゃあいいんだから……たかが趣味で苦しむオッサンひとり!

ほな行くでぇぇぇぇぇ!

 

超満員の会場。

なんだかわかんないが、イエーッ!て感じてしまう自分ってなんなんだろう。たたたたたまんないぜぇぇぇ! よぉよぉ、この感覚ってなんなんだよぉぉぉ!!

歌間違ってもギターの弦切ってもおかまいなし、なにが起きようがこれがライヴなんだ。

この瞬間を味わいたかったから、オイラはここに来たんだぁ!

当初のぼくの構成では〈休憩無しの二時間〉ということで始めたにもかかわらず、結局〈休憩無しの三時間十五分!〉になってしもうた。やりっぱなしの放し飼い状態! ほんとに関係各位スマンです。あとさき考えずのエクスタシーでしたぞぉ。きっと、確実にお客さんも楽しんでいただけたと能天気に感じ入っているのだ。

 

ぼくの左指にはギターだこが出来ている。そして、阿呆のように疲れきっている。

そして、ライヴを終えた今、こんなことを思っているのだ。「また、やりたい! 絶対にやる! 徳島だけではなくいろんな場所で今のバンドのメンバーとやる、やってやる!」ライヴ前、人前で唄うことをあんなに怖がっていた自分が嘘のように〈青い夢〉を描き始めている。ウーン待っていてくれ!

 

「音楽と人」2006年5月号掲載