ことば

COLUMN

第59回「ガムテープ」

2007年、とにかく新年だ。イノシシに特別な愛はないが、とにかくイノシシ年なのだ。

取りあえずは、おめでとうだ。そして、今年もよろしくなのである。

去年一年を振り返ることもなく、ただただ時は過ぎていく。なにかをしても、なにもしなくても、間違いなく時だけは過ぎ去っていく。今年もおそらくいつも通り過ぎていくのだろう。そして、ふと思う。ぼくは、あと何年生きるのだろうかと……その答えはこうだ……死ぬまで生きます。

 

新年早々だが、以前から書きたかったことがある。新しい門出で相応しくないことも重々承知である。時は今、今書かずして何時書くのか! これを書かなければオイラの心のこのモヤモヤは晴れることはない。スマン! 満を持しての〈ガムテープ〉なのである。嗚呼、ガムテープ!

 

今から27年前のことだ。

大杉漣、28歳。当時の大杉は、恐ろしいほどピチピチだった。ハングリーでアングリーだった。

梅雨時のある日、劇団事務所に一本の電話があった。

「渡辺といいますが、大杉さん……映画に出ていただけませんか」

「映画ですか……ぼくが!」

「はい……高橋伴明監督の作品です。日活ロマンポルノなんですが」

日活ロマンポルノ!

当時のオイラの映画鑑賞といえば〈名画座系〉。ロードショーは高くて観に行くことも出来ず、持て余す時間をつぶすのは、もっぱら場末の三本立て映画館だった。足を投げ出し、煙草をふかし、妄想に耽るには、あの暗闇が格好の場所だったのだ。それこそゴダールからピンク映画まで、安ければ映画のジャンルは何でもよかった。中でもロマンポルノは、好んで観ていた。そんなオイラが、スクリーンの向こう側にいくのかぁ。即答だった。

「やらせていただきます!」

 

映画タイトル『南海の女』(公開時にはタイトル『緊縛いけにえ』となる)。

大杉漣、映画初出演作品。舞台は愛媛県宇和島市。

ぼくの役は、アロハシャツの地元のチンピラヤクザ。

異常なほど過緊張の撮影初日。

舞台と違って映画の流儀が全くわかっていないオイラ。

NGもたくさん出した。それでも高橋監督は、新人のオイラを厳しく丁寧に演出してくれた。

そして、その日のメインイベントがやって来た。ロマンポルノになくてはならないSEXシーン! それを業界用語では〈カラミ〉と呼んでいた。そのカラミの撮影が始まったのだ。カラむのは、主演女優とチンピラ、つまりオイラ。

助監督さんが、荷造り用のガムテープとガーゼをオイラに渡した。

「大杉さん、わかりますか。これで前貼りしてください」

「前貼り?」

「ええ、これで股間を隠してください。よろしくお願いしまーす」

つまりお互い股間を隠すことが、ロマンポルノの流儀だったのだ。

便所で右手にガムテープ、左手にガーゼを持った茫然自失のオイラ。

どうすりゃあいいんだぁ! どう隠せばいいんだぁぁぁ!

「大杉さん、大丈夫ですか。現場の用意が出来たので準備が終わり次第お願いしまーす」

あせった、とにかくあせった。女優さんや皆さんが待ってる、イヤイヤ待たしちゃあいかん! 急げ大杉! ええいっ、ままよぉ! 勢いまかせにガーゼも当てず、股間をガムテープで直接グルグル巻いた……巻いた……巻いた……グルグルと……幾重にも巻いた、失礼があってはいけないとついでに肛門の方までガムテープを貼った。そしてバスタオルを腰に巻き、いざ現場へ……。

「お待たせしましたぁ!」

「じゃあ、行こうか!」。監督の声。

女優さんは、慣れた手つきでバスローブを脱いだ。そしてオイラもバスタオルを取った。

「わぁははは、大杉、ガムテープ随分巻いたなぁ。タケノコじゃあないんだから。簡単でいいんだよ。隠れてれば……」。高橋監督が笑いながら言った。

現場は大爆笑だった。もちろん恥ずかしかった。しかし、なんだか映画の世界の人たちに一歩だけ近づいた感じがした。四苦八苦の末、なんとかカラミのシーンを撮り終えた。

お疲れさん! 高橋監督がねぎらってくれた。

 

さてさて撮影はなんとか終えたが、問題はここからだ。こんなことになろうとは誰が想像しただろうか。どうやって股間のタケノコ君を剥がすのか! カーゼを当てず直接股間に巻いたものだから、当然陰毛君に密着している訳でしょ……でも一生貼ってるわけにもいかんでしょ……剥がさないといかんでしょ……覚悟を決めるしかないでしょ……ええぃ!

オイラは、ゆっくりと丁寧にガムテープを剥がし始めた。大切な陰毛君になるべく負担がかからないようにソォーと腫れ物に触るが如く……その時だ。

「大杉さん、ロケバス出ますから急いでくださーい」

あせった、とにかくあせった。皆さんが待ってる。イヤイヤ待たしちゃあいかん。急げ大杉!

バリバリバリ……ビリビリバリ……ああっ激痛なんてもんじゃあない。なんだこの痛さは……しかし、待たしちゃあいかん! バリッビリッバリッビリリリリィィィ……ウォォォォォォ……アアアアア以下表現不可能。

教訓……ガムテープを決してなめてはいけない。

大杉漣・28歳。子供のようにツルツルした股間でロケバスに乗り込んだのは書くまでもない。合掌!

 

「音楽と人」2007年2月号掲載