ことば

COLUMN

第60回「周防正行」

今年初めて書いた自分のHPのコラム、そこで高らかに決意表明した節煙宣言!

除々に煙草の本数を減らしていく……そして行き着く場所はもちろん完全なる禁煙!

イヤイヤ確かに正月明けのあの時はそう思った。俺はやる! 絶対やる! やると決めたら俺はやる、そう俺はそんな男だぁ!

確信犯の如く、あの時はそう思ったのだが……ああっ、あんなこと書くんじゃあなかったぁ。

もう周りの人たちが、待ってましたとばかりに「どう漣さん、煙草減ってるぅ!?」「健康のためには止めたほうがいいに決まってるもんねぇ」「サッカーのためにも絶対でしょ!」

なんだよ、あんな小さくて地味なHP、読んでんのかよぉ。

スマン! 正直に途中経過を報告する。目下のところ節煙の意思は生きてはいる。生きてはいるが……正直現実は去年となんら変化なし。ぼくって情けない。

ああっ、あんなコラム本当に書くんじゃあなかったぁ。決意なんて絶対人様に言うもんじゃあない!  ひっそりやれってことなんだぁ。

 

さてと気分を変えようっと。

「周防正行監督について、親交のある大杉さんにお話を伺いたいのですが……」

新年早々取材を受けた。

ええっ親交があるなんて言っても、年始のご挨拶とたまにお会いする程度なのに……ぼくなんかでいいのだろうか。

「はいっ、今の周防さんは有名になり皆さん知っていますが、若い頃の周防監督について知っている方は少ないものですから……」

その周防監督が11年ぶりに新作映画を撮った。それも裁判映画らしい。

11年ぶり!? そうか名作『Shall we dance?』からもう11年経つのかぁ。ついこの間という感覚なのに、時の流れは歳と共に加速する。

 

そう、初めて周防監督とお会いしたのは1980年、今から27年前である。

高橋伴明監督の現場で「今日から新人の助監督さんが参加します」ということで紹介されたのだと思う。

学生のような雰囲気がする清潔な人、そんな印象だっただろうか。のちに出会うことになる黒沢 清監督にも通じる独特な空気を持った人だった。

典型的な助監督というより学者のような仕事ぶり……彼はいつも現場を研究していた。

首からぶら下げた小さな大学ノート。

キャメラマンがこれから撮ろうとするフレームのサイズや絞りの度数、照明の位置・入射角度を絶えず大学ノートに記録していた。

そんな助監督、オレ見た事ない! もちろん周防さんが、現場での助監督としての仕事を疎かにしていたわけではないんだよ。

周防さんしか解読できない暗号のような文字たちが、大学ノートを埋めていく。

彼は大いなる映画の観察者のようだった。

1984年、そんな周防さんが映画を撮ることになった。周防正行第一回監督作品『お嫁さん日和』。

「漣さん、やってもらいたい役があります。この〈間宮周吉〉という役なんですけど……」

「周防ちゃん(注・当時はこう呼んでいた)、この間宮周吉って64歳だよ。そんなの無理だよ」

「イヤイヤ、大丈夫ですから」

その時のオイラは、30歳そこそこ……実年齢より倍以上の役をやってくれと周防さんは簡単に言い切った。

「他の俳優でこの役の実年齢に近い人いるんじゃあないですか」

「いや、漣さんしかいないんです。こんなこと頼めるのは!」

どういう口説き文句なんだろう、こんなこと頼めるのはって……そして最後にこうつけ加えた。

「現場で漣さんを観ていて、この役出来ると確信しました」

やはり彼は、オイラのことも観察していたのだ。

結局、周防監督の誠実で真っ向勝負な言葉に折れた。

 

撮影は一週間ぐらいだっただろうか。

オールロケーション! 毎日仮眠状態。スタッフは、オイラなんかよりもっともっと大変だったと思う。

そんな過酷なスケジュールにもかかわらず誰ひとりとして逃亡する者も文句を言う者もいなかった。

これってやはり、周防さんの人望なんだろうなぁ。

ものすごく明確な演出、結果がでるまで粘る人……時間がなくても何度も何度もテストを繰りかえし、妥協はしなかった。

ぼくへの要求は〈無表情と猫背〉でいること。セリフは棒読み状態のように語り、立ち振る舞いは力の入らない猫背、そこだけは厳しく演出を受けた。

 

もっと詳しく書きたいがまたのお楽しみということで……そして、映画は完成した。

タイトル『お嫁さん日和』は映画公開時には『変態家族・兄貴の嫁さん』となった。なんてきわどいタイトルなんだぁ!

スタッフ・キャストは、周防さんの映画は実に面白いと感じていたのだが、当初はあまり評判にもならなかった。

しかし、ある雑誌で蓮見重彦さんがこの周防作品を絶賛してからというもの、世間の手のひらは大きくひっくり返った。

あの時の蓮見さんの言葉は、どれだけぼくたちを勇気付けてくれたことか!

 

今回の周防さんの新作映画でも何百冊の文献を読み漁り、多くの人へのインタビューを敢行したと聞く。

なんだか周防さんは、相変わらずでいいなぁと思った。観察者・周防正行バリバリ健在だね。

ねぇねぇ周防監督! 今ならオイラ、間宮周吉役、そんなに演じなくてもリアルに出来るかも知れないよ!っと。だって歳相応だもん。

 

ああっ、今回はここまで。おおっと! 灰皿に煙草の山! なんだょそうか! 「音楽と人」書くのやめたら節煙出来んじゃん! ジャンジャン。

「音楽と人」2007年3月号掲載