ことば

COLUMN

第64回「老いゆく射精」

新しい所属事務所になってから二ヵ月間、ほとんど東京にいなかった。

長野・山梨・京都・和歌山とロケーションの日々が続いたのだ。やっぱりオイラの仕事は、体力一本勝負!だと実感している今日この頃である。

 

たまには音楽について書こう。

ぼくのプロフィールには、趣味の欄に〈バンド活動〉と明記してある。恥ずかしいが本当のことである。取材などで何度もそのことについての質問を受けたこともある。

「草サッカーは承知しているのですが、バンドですかぁ……大杉さん、バンドではどんな音楽をやられているのですかぁ?」

「はい、主に70年代のフォークをカバーし、バンドという形式でやっています」

やっています? ……やっていま……やってい……やって……やっ……や……ぼくは、本当にバンド活動をやっているのだろうか?

 

正直になるべく忠実に書きたいと思う。

去年の三月、地元徳島の映画館でライブをやってから一年三ヵ月! ぼくはバンド活動をやっていない。いわば〈趣味休業〉といったところだろうか。その間、我が家のリビングに立てかけてあるギターにも触れてはいない。弾きたいという欲求も不思議と起きなかった。ギターに付着したホコリと飼っている犬の毛が、どれだけの時間放置されていたのかを物語る。弦は当然の如く錆びていた。しかし、ギターは文句ひとつ言わない。これは、現実である。

 

仕事が忙しくてそんな時間もなかったんだよ……そんな弁解も出来るだろう。

しかし、ぼくは自分に向けての弁解の言葉を持ってはいない。理由は明白。なぜそうだったのかわからないのである。気がつけば一年三ヵ月……という感じなのだ。

もちろん〈仕事〉ではない、単なる〈趣味〉であることは重々承知である。

趣味ならば楽しめばいい。楽しかったらそれでいい。だって楽しいんだろ……そうなんだろ!

 

七年前、徳島の元フェリー乗り場待合所での初ライヴをぼくは忘れてはいない。

味わったことのない戦慄・鳥肌……無防備・無軌道・無計画……なんだってどうなったってかまやしない……そんな気持ちだっただろうか。

行き当たりばったりの快楽!

かつてやったことを……そして味わったことをなぞろうとしている愚かな自分!

こうして書いている今も、正直な気持ちから遠ざかろうとしている姑息な自分がいる。

ぼくは……今……苦しいのです。

どうしていいのか……わからないのです。

かつてぼくは、〈楽しむためには苦しめ!〉と語ったことがある。

その言葉から、ぼく自身が逃げ出そうとしているのか。

 

ギターも唄も……そりゃあうまくなりたいと思う。

そう願うことは至極当然のことであるだろう。

でもそれだけではない……なんだか衝動に近いようなもの……心の奥に潜む……なにか。

すまん、申し訳ないがわからない。わからないから書けない。

とりあえず今日、決めたことがある。

ライヴをやる……こんな状態から一歩踏み出すためには、それしかない。

いついつやる……徳島以外にも何ヵ所か……それだけを決めた。

とりあえずギターのホコリと犬の毛を落とそう。

そして、手を洗って爪を切ろう。

あのFコードを押えることが出来るのだろうか。

馬鹿丸出しのたった一人の船出……かあ。

趣味と正面で向き合う。そしてワクワクする。

ああっ、こうかもしれない。これしかないかもしれない……精神射精! ……おおぅぅぅ!!

飛ばしてやるぅ!!

 

「音楽と人」2007年7月号掲載