ことば

COLUMN

第68回 「怒るでぇ、しかし!」

九月某日。 その日の予定は、映画の舞台挨拶と連ドラの打ち上げだった。 そして、どちらも大切なものであり楽しみな催しものであった。 よしっ、今夜ははしゃぐぞ! そう決めていた。 そんな矢先に……台風が関東を直撃するってかああ? 「大杉さあーん、今夜中に北海道に入らないと……明日は台風で飛行機が欠航ということも!」

「だって、今夜は舞台挨拶と打ち上げがあ……」

「いやあ、もちろん大杉さんの気持ちはわかりますが……今夜飛ばないと明日の仕事があ!」

ザッコガール・渡辺さんの言葉は、冷静で説得力のあるものだった。

ああっ、三ヵ月一緒に過した連ドラのスタッフやキャストの顔がぐるぐると……嗚呼っスマン!

後ろ髪をひかれながらも関係各位に連絡、急遽その日の予定を変更し、北海道・札幌に単身で向かうことにした。

 

台風は予報通り関東直撃、予定変更の前乗りは正しかった。

翌日、北海道文化放送のドキュメンタリーのナレーションの収録を無事に終え、予定ではそのまま東京に戻ることになっていたが……プロデューサーのIさんが

「大杉さん、今空港に電話して確認したんですが、東京行きの飛行機は全便欠航になっています。それに台風は北海道の方に向かっているみたいですよお!」

「まあ、明日の午前中までに東京に着けば……ええっ」

「じゃあ大杉さん、こうしましょう! 今晩中に関西に飛んで明日の朝新幹線で東京に戻るというのはどうでしょう」……Iさんの判断に賭けることにした。

ぼくたちは、大急ぎで新千歳空港に向かった。

大阪・伊丹空港行き、幸運にもその日最後の一便がギリギリのところで飛ぶという……しかし万が一、台風の影響で飛行困難になったら新千歳空港に引き返す可能性もあるということらしい。

大阪行きは、満席だった。どうやらぼくと同じ境遇の方もいるようだ。

「台風等の影響で飛行機はかなり揺れが予想されます……途中引き返す可能性も……ご了承くださいませ」。機内に多少の緊張感が走った。

飛行機が飛び立つ……そして……揺れた……キリモミのような……揺れが……かなりあり……なんとか無事に伊丹空港に降り立った。

ぼくの横にいたコワモテの男性も眼を閉じたまま大きな溜息をついた。

その気持ちが本当によく理解できた。ああっ、よかったあ。本当によかったああ。

 

すぐに伊丹空港から新大阪駅に向かった。

東京行きの新幹線はやはり台風の影響ですべて運休していた。

新大阪駅は、人・人・人で溢れかえっていた。中には駅員に詰め寄る人もいた。

「なんでやあ、今日中に東京行かんとえらいことになってまうんやあ、仕事なめたらあかんでおお! なんとかせえやあ!」。気持ちは痛いほどわかる、が……どうしようもない。

ぼくは、とにかく明日の朝までに東京に着けば仕事に影響がない。

とりあえず今夜のネグラ探しをするとしよう。そうホテル探しだ。

 

駅の総合案内に行く。

「今晩泊まれるホテルを紹介していただけますか」

「ええっと、すんません。新幹線が止まってますからねえ。その影響で新大阪近辺のホテルは満室になってまして……あとは飛び込みで探していただくしかありません……すんませんねえ」

ブラブラと新大阪界隈を歩くことにした。何軒かのホテルにも飛び込んでみたが、満室情報は正しかった。あてのない散歩みたいでなんだか楽しいなあなんて感じたりもした。だってこんな経験そんなに出来ることでもないし……ようし、梅田に行ってみよう! 梅田なら多少詳しいし、ホテルもたくさんある。

 

しかし、梅田も新大阪と同じ状況、どこのホテルも満室だった!

路地裏には何軒ものラブホテルが見える。そうか、ラブホっていう手もあるなあ。オヤジ一人がぶらりとラブホかあ……あっいやいやマンガ喫茶もあるかあ、行ったことないけど……ああっ待てよお、テレビでやっていた芸能人がどこかの田舎で飛び込みで泊めてもらう家を探す番組があったけど……まさかなあ……ここでそれやるってかぁ。オレ、なにを、しようと、しているのか……なんだか可笑しくて仕方がなかった。

 

大通りの向こうに一軒のホテルが見えた。よおし、あのホテルを最後にしよう、ダメならラブホかマンガ喫茶か「梅田に泊まろう!」だな。

「あのお、部屋空いてますか」

「ええっ一部屋だけ空いてますっ……今夜は新幹線の影響で大阪のホテルはほとんど満室でして……お客様はタイミングがよかったあ。あと空きがツインひと部屋のみです……ただ値段が、○万円なんですが……」

「ああっ、わかりました。じゃあその部屋お願いします」

 

ほんとにスマン! 字数が一杯になってしまった。結論をはしょってしまうことを寛容な気持ちで許して欲しい。とにかくだぁ、その部屋のどこがツインなのかあ! 狭いシングル部屋に無理くりベッドを二つ入れて足の踏み場もないほどにしたツイン部屋っ! 久々に驚き、久々に呆れかえり、久々に激怒したああ! ひとの足元見るのもたいがいにせえやあ!! この夜ほど自分の立場を疎ましく思ったことはない。でなければ俺は確実に切れていた!

 

「音楽と人」2007年11月号掲載