ことば

COLUMN

第78回「恐るべし愛しの大阪」

皆さん、生きとりますかぁぁ!?

そう言いたくなるようなこの狂暑!

とりあえず中身はどうあれ、あせらず生き続けてみましょう。

ということでオイラ、関西テレビ50周年記念ドラマ『ありがとう、オカン』の撮影で久しぶりの大阪へ……正直関西弁の仕事は大好きです!

 

その日、新幹線・新大阪駅からホテルまでタクシーで。

「運転手さん、○×ホテルまで」

車は発進、しばし走ったその時オイラは異変に気づいた。車が明らかに蛇行しているのだ。

「運転手さん、大丈夫ですか。車、真っすぐ走ってないですけど……クネクネしてますよぉ」

「はぁ……はぁ……そうですか……大丈夫やと思いますけど……はぁ……」

「イヤイヤゆっくりで結構ですから安全運転で……ねっ、そんなにぼくも急いでないし……」

「いやぁ、すんませんなぁ……ちょっと……その……切れたみたいなんですわぁ……はぁ……はぁ」

「はぁ……はぁ」という息使いが先ほどよりも荒くなっているようだった。

「運転手さん、切れたって……なにが切れたんですか」

「イヤイヤすんませんなぁ……ちょっと……ああっもうアカン! 痛ぁて我慢出来ん!」

「いやぁ……切れたって……あのぉ」

「あああっ痛いっ……わて、尿管結石なんですわぁ……ああっはぁはぁ……お客さん、スンマヘン! ここで降りてくれますか……ほんで悪いんですけど救急車呼んでくれますか……はぁはぁ……」

「わかりましたっ……切れたいうからなんかヤバい薬でもやってるんかと勘違いしましたわぁ……ハハハッ」

「なに言うてまんねん……ハハハッあっ、痛ぁい……ホンマ痛いっ!」

ぼくは、瞬時に俳優からレスキュー隊員となり、湿度70%の大阪の街でタクシー運転手さんの片腕になっていたのだ。

 

その日、ホテルでの夜。

何日か前に切った深爪が、まさかの化膿でズキズキと痛み出したのだ。

右中指にもうひとつの心臓があるがごとくズキズキと……その痛さといったら……嗚呼っ!

痛さのために寝つくことも出来ず、悶々とした時間を過ごすことになった。

午前2時、患部を冷やすためにぼくは氷を取りに同じフロアーにあるアイスルームに向かった。

浴衣姿のオイラは、アイスルームのドアを開けた……ああっ、そこに誰かがいる……人ひとり入れば一杯になるであろうアイスルームに先客が……しかも二人……信じられないだろうが、二人とも半裸の状態……カップル? ……いやぁ、50代の中年女性と20代の男性。女性は紫色のパーティードレスをたくし上げたまま、男性はジーンズを床に脱いだまま……もうこれ以上は読者諸氏の妄想でコラージュしてくれぇぇぇ!

「あっあっ、すんません……失礼しましたっ!」

ぼくの口から出た咄嗟の言葉だ、なぜ二人に謝ったのか……ぼくにはわからない。

「いやぁ、どうしょう……こちらこそスンマセン……あっ氷どうぞ……ほんまイヤやわぁ……はぁ……ああっ」

50代のおばちゃんの唇から口紅がはみ出ていた……そして照れ笑いをした。

物凄く狭い空間に大人が三人、ぼくは言わなくてもいいのに「指が痛いものですから……膿みましてねぇ」なんて……しかも愛想笑いまでしているではないか。その間20代の男性はずっと天井を見たままだった。

部屋に戻り、氷で指を冷やしながら「人間だからさぁ」なんてわかったようなわからないような言葉を呟いてみた。

それ以後アイスルームには何度も行ったが、あの年の差カップルとはそれっきりである。

 

翌日、ぼくの指は昨夜よりもさらに腫れていた。

今日の撮影前になんとか病院にいって手当てをしたかった。しかしその日は日曜日、病院は休診日なのだ。仕方なくホテルの近くにある診療所を紹介していただいた。

ホテルから徒歩7分、昭和の古い建物。トタンで出来た看板……○○診療所。

「痛い……痛い……先生、痛いっ! ああ♯♯%???!!!??……痛ぁ〜い痛いぃぃぃ」

舞台俳優の腹式呼吸で叫ぶがごとく……野太い男の雄たけびが診療所の待合所に響いた。

しばらくしてその声の主が現れた。

その患者さんの上半身半分は包帯でグルグルと巻かれていた。そして腕からは、筋彫りの刺青が見えていた。目はうつろだった。

「△○さぁん、明日●×病院へ行ってくださいね。今日はあくまでも応急処置ですから」

「はいっ、わかってます。必ず行きますから……あっおたくさん、俳優の……わし、ファンですわぁ」

あっあの腹式包帯男に声をかけられた。

「いやあ、こんなとこでお会いするなんて……どうされたんですか」

「ああっ指がその……化膿しまして」

「ああっ、痛いでっしゃろ……わしもほら指切ったことあるさかいに」

と欠損した小指を少し照れながらオイラに見せた。

「いやぁ嬉しいなぁ、こんなとこで会えるなんて、わしホンマにファンやから……ほなまあっ、お大事に大竹さん!」

大竹さん? 少し凹んだが、お礼を言って彼と別れた。

「ええっと大杉さん、お入りください!」

ベテランというよりさらに高齢の看護師さん?が、ぼくに声をかけた。

オイラは診察室に入った。

そして、そこにいたのはなぜか顔中怪我だらけの80歳くらいの先生だったのだ。

つづく

「音楽と人」2008年9月号掲載