ことば

COLUMN

第80回「泉谷さんの毒リンゴ」

原稿を書くたびに思う、一ヵ月のなんと早いことか!

この一ヵ月、特別の時間を過ごしていたわけでもない、といってただ無為に過ごしていたわけでもない。まぁそれなりというか……相変わらずなのである。

過日……いや詳しくは9月27日にオイラ57歳になった。

会社勤めでもしていればそろそろ定年になる年齢であるのだろうが、どっこい俳優なんて浮世稼業をやっているものだから、なんらかの区切りやけじめある歳の取り方なんてものから程遠く、実際自分がいい歳なのかどうかさえよくわからないのだ。

ただ57歳になってもあの所在のわからない〈自己〉というものに日々振り回されているのだ。

マジ、57歳になってもその程度なのである。

 

「大杉さん、今年はライヴをやらないんですか」

そんな問い合わせがある。こんな音楽の素人にありがたいことだ。

今現在なにも決めていない。やるかどうかもわからない。

やりたい気持ちはもちろんあるのだが。

 

先日、泉谷しげるさんの『翼なき野郎ども』という番組に出演した。

CSの音楽番組で泉谷さん自身が毎回ゲストを招き、台本のない形で思いのまま語りそして唄うという、生身で勝負的な番組だった。

これまでもエレカシの宮本浩次さん・仲井戸麗市さん・SIONさんなど……ゲストはすべてミュージシャンだった。音楽には素人のオイラが、泉谷さんと語り唄うなんて……ドラマや映画での共演ならなんとか腰も座るだろうが……よしっここはやはり断ろう! そう思ったのだが……。

「大杉、来い!」泉谷さんのこの一言で出演を承諾してしまったのだ。

(ここに詳しくは触れないが、もう20数年前、ぼくの劇団時代に泉谷さんには本当にお世話になっている……そんな伏線もあったということを書き添えておきます)

 

収録はテレビスタジオではなく東京・荻窪にある『落陽』というフォーク酒場!

いやあフォーク酒場なんてものがあることも知らなかったのだが、この『落陽』という酒場はその名の如く、あの吉田拓郎さんのファンの方が集う店らしい。

壁面には拓郎さんの写真がたくさん貼ってある。

なぜこの店での収録になったのかは不明だが……。

「なんだよこの店! 拓郎の店かよ! 気に食わねえなぁ……ぶっ潰すつもりでやるからよぉ覚悟しとけっ!(笑)」

なんて開口一番、泉谷さんらしい愛あるご挨拶の後、オオっといきなり助走もなく拓郎さんの70年代の名曲「イメージの詩」を唄い始めたではないか! イヤぁやりたい放題かいっ! 生で泉谷さんの吉田拓郎ソングを聞けるなんて……それはそれは鳥肌ものでしたっ!!

「さて、ということで今日のゲストは、大杉 漣さんですっ」

なんてこっちも泉谷さんの突然始まったゲスト紹介でその場に出ていったものの、何だか落ち着かず、おまけに不必要な緊張もありで……オイラ明らかに上がっている……いつもと勝手も違う世界で自分の居場所を見つけられるのだろうかと不安満載の出航になったのだ。

そんなオイラの状態を敏感な泉谷さんは見逃すはずもなく、微笑みつつ何気に気遣いもしてくれた。

泉谷しげるさんは、ぼくにとって大好きなミュージシャンであると同時に敬愛する人生の先輩だ。言うなればぼくは、泉谷しげるの〈ファン〉と言ってもいい。おそらく今回の過緊張の原因は、そこにあったのだと思う。

〈ファン〉とか〈好き〉ということは、仕事でのいい距離感や関係を保つのに好ましいことではないのだろうか!?

今回の番組のために泉谷さんはぼくの『FURIDASHI』というライヴDVDも観てくれたらしい。

「大杉さんは走るよね、歌が走る……つうか段々とつんのめっていくんだよなぁ」

「ああっそうです。イヤイヤほんと力が入りすぎて」

「俺のよぉ『春のからっ風』なんて曲は、ロックじゃあないんだから……大杉さんは思いっきりロックでやってるよねぇ(笑)」

『春のからっ風』『春夏秋冬』『白雪姫の毒リンゴ』……ライヴで泉谷さんの歌は、この三曲をやらせていただいている。そして、これらの曲たちは、ぼくにとってその時代の自分を振り返る懐かしさだけではなく、今の自分のこころにきっちり届く歌(言葉)だと感じているのだ。

泉谷さんは、柔らかくこう言った。

「歌はどう唄ってもいいんだよ、だけど歌(言葉)の持つ世界は歪めちゃあ駄目なんだ」

泉谷さんのこの言葉は、音楽のみならず表現者にとって大きい意味を持つものだと思う。自分に届けばいいんだ、そして楽しければ……ぼくは能天気な素人なんだと痛感した。

泉谷さんは、今年60歳になった。つまり還暦!

今年五月のライヴでは、怒濤の25曲を唄い切った。

そして、この10月には60歳を記念してギネス級の60曲オールナイト・ライヴをやるらしい。

40年も唄い続けた茶目っ気たっぷりの〈悪ガキ冒険者〉が、ここにいるのだ!

ぼくは今自分のライヴについて用心深くなっている。

これからも能天気に無防備にやることが出来るならそうしたいと願っている。

それで楽しいならそれでいいと思っている。

しかし、なにかがぼくの中で変わりつつある……それが今の実感なのだ。

 

「音楽と人」2008年11月号掲載