ことば

COLUMN

第81回「大人になって見た夢」

NONFIXというドキュメンタリー番組のナレーションを担当した。

タイトル『大人になって見た夢』。

 

ぼくは、ナレーションの仕事が好きだ。

自分と映像との距離感を意識し言葉を当てていく作業。

その作品に一番相応しい着地点を探りながらのライブ的緊張感がとても心地いいのだ。

収録の前日にDVDと原稿を受け取り、一通り練習をしてから翌日の本番を迎える。

今回の作品の原稿テキストには、〈日光にアイスホッケーチームがある〜人気スポーツであるプロ野球でさえ経営に苦しむスポーツ界にあって、一見無謀とも思える夢に挑もうとする男たちがいる。瀕死の状態にあるアイスホッケーチームを再建する大人たちの夢!〉と書き添えられていた。

 

そんなキャッチーな言葉にワクワクしながら早速DVDを見ることにした。

「えっ……ええっなんでぇ!」ぼくは小さな驚きの声を上げたのだ。

なぜなら、そこにはセルジオ越後さんとえのきどいちろうさんが映っていたから……。

「ええっ、なんで! なんで彼らがぁ……アイスホッケー?」

そう思うのはぼくだけではないはずだ。スポーツに詳しい方ならおわかりだと思うが、彼らはサッカーの解説や評論をするプロなのだ。

その二人がなぜ資金難で苦しむアイスホッケーチームに敢えてスタッフとして加わったのか……。

映像は、そんな彼らの姿をほぼ一年間に渡って実にていねいに追っていた。

 

選手への給料の遅配。

それでも選手たちはアイスホッケーを愛するがゆえに歯を食いしばりがんばり続ける。現在はアジアリーグという形になり、AWAYの韓国や中国にも試合に出掛けなくてはならない。もちろん資金的なこともあり格安航空券での移動、そして宿泊先は時にはラブホテルになることもあるらしい。

一方、セルジオさんやえのきどさんたちも資金集めや試合ポスターを日光のあちこちの店に貼らせていただくために奔走……当初は地元のファンや関係者も二人のことを「どうせそう長く続きはしないだろう、お飾りで名前貸しのようなもの」と考えていたそうだが、二人の日々の奔走する姿を見続けることで、彼らが〈本気〉であることを認知していくのである。

えのきどいちろうさんは日光でアパートを借り、セルジオさんにいたっては大阪から日光に引っ越し、「次に引っ越すのはお墓」とまで言い切るほど不退転の気持ちを表明したらしい。

逞しい選手、そして苦境にいることを十分承知の上でプロチームとしての確立を目指すセルジオさんやえのきどさんたち……彼らは、なんだかとてつもなく明るかった。

 

そんな映像を見ながら、ぼくは不覚にも泣いた。

ドキュメンタリーの映像に台本の言葉を当てていきながら、ぼくは自宅で声を上げて泣いてしまった。素敵な男たちとともに……。

だが、ナレーション録音当日は冷静だったと思う。なるべく感情過多にならないように……ただ人の温もりのようなものだけは残したいと心がけ本番を終えた。そして、この作品に出会えたことにこころから感謝した。

 

ナレーションの仕事は無事終えた……まぁ仕事としては終わったのだが、なんだか別の気持ちが動き始めていた。これもなにかの〈縁〉なのだろうか。ぼくも日光アイスバックスという市民チームになんらかの関わりを持ちたいと思ったのだ。

ぼくに出来ること……そうだ会員になること!

会員番号7●○番……ぼくは早速会員になった。

 

そして先日のこと。

ぼくは西武新宿線に乗って、生まれて初めてのアイスホッケーの試合に出掛けた。

東京・東伏見。西武VS日光アイスバックス。

アイスバックスはAWAYにもかかわらず、多くのサポーターが駆けつけていた。なんだかワクワクした。ぼくは、アイスバックスのサポーター席近くに腰を下ろした。その時「大杉さん!」と声がかかった。

大柄な男性がそこにいた。えのきどいちろうさんだった。

ぼくたちは初対面だったが、なんだか昔からの友人のように挨拶を交わした。

「会員にならせていただきました。時間があれば日光にも応援に行きますから」

「ああっ、是非。来週は……チームは韓国で試合です」

「えのきどさんも行かれるんですか」

「いやぁ行ってもいいんですが、全部自費なんですよ」

なんだか、そんなことも明るく楽しそうに言いのけてしまう彼は、素敵だなと思った。

試合は残念ながら負けてしまったが、動きがサッカーのフォーメーションと似ており本当に面白かった。ほとんどの選手の前歯は折れているそうで、やはりアイスホッケーは〈氷上の格闘技〉なんだということを痛感したのだ。まぁ正真正銘の喧嘩スポーツですわぁ!

大人になって見た夢……現実を知る分、夢も深くなる。

音人の読者のみなさんも興味あるならば、是非アイスホッケーご覧あれぇぇぇ!

 

「音楽と人」2008年12月号掲載