ことば

COLUMN

第83回「六尾の雑魚」

いつも漠然と考えていることがある

自分はどう生きていくのか

 

ぼくの所属する〈ZACCO〉は大きな事務所ではない、というかむしろ小さい事務所だ。

それにもかかわらず入りたいと願う人が、ZACCOの門を叩く。

そして、その応募のほとんどは男である。ワッハハ! 特別意味はない。

俳優としての未来を熱く語る者もいれば、どういうことかぼくへの憧れを語る者もいる。

己の眼前にある可能性はどこまでも広がるかのように……。

彼らの気持ちは、もちろん理解できる。

本来なら応募者ひとりひとりに会って話を伺い今後を決める……それが理想ではあるのだろうが、物理的にそうはいかない現実もある。

それと同時にぼくの性格ということもあるだろうが、会うと必ずと言っていいほど〈情〉が湧く。特にぼくは、その情とやらにすこぶる弱い、情の湧きやすい性質(たち)なのだ。

善し悪しは別とし、情に流され、情にほだされやすいオッちゃんなのだ。

「わかりました、微力ながらなんとかしましょう! お互い頑張りましょう!」なんて軽く言い出しかねないのである。

事務所のスタッフもそこのところを重々承知しており、どうやらぼくが応募の方と直接会うことないように配慮してくれていたようだ。

 

去年の秋頃だっただろうか。

「これだけ応募があるのだから少し考えてみようかと思っているんだけど……ぼくも若い頃そうだったように、応募してきた人たちは何かのきっかけとか窓口が欲しいんだと思う。もちろん誰彼に会うのではなく、まずはみんなが書類を吟味し、そこで選んだ方にぼくが会うというのはどうだろう」

これが、ぼくの提案だった。

日々頻繁に来る応募にZACCOのスタッフがかなりの労力を割いていることをぼくは知っていたし、相手のことを考慮すると当然丁寧な配慮もいるだろう。

だからこそ、この時期にまとめてやろうと提案したのだ。

事務所を開設して約二年、新しいメンバーを増やしたいとぼくたち自身もどこかで願っていたことも確かにあったと思う。

 

いま世間では、恐ろしいほどのリストラの嵐が吹いている。

これまでの仕事に対する通念や流儀がまかり通らず、理不尽が大手を振る息苦しい時代だということは痛いほどわかっているつもりだ。

昔のように〈はじめに人ありき〉なんて時代は終わったのだろうか。

 

そんな時代の流れに逆らうかのように〈人増やし〉をしようというのだ。

ZACCOには、力も財力もない。しかし、〈やります〉という気持ちだけは強くある。

この一点だけで集まった任意の集団(事務所)なのだ。

集団の中の個ではなく、あくまでも個であること、その個たちがそれぞれの意志と責任のもとに作られた集団なのである。

 

結果を言おう。

六人の新しいメンバー(俳優)が、ZACCOに所属することとなった。

キャリアある四十代の俳優がひとり、あとは全員が二十代である。

そのほとんどはなんらかの形で劇団活動に関わりのある俳優たちである。

 

初めての顔合わせの日、彼らを前にぼくはこう言った。

「ぼくは立場上ここの代表ですが、会社の経営をするためにZACCOを作ったわけではありません。正直言ってしまえば自分のためです。俳優として自由に活動するための窓口としてZACCOを設立したのです。しかし今回、なんだかみなさんと〈縁〉のようなものを感じたのでしょう、こんなことになってしまいました。2009年から六人の新しいZACCO(雑魚)たちが、この事務所で泳ぐことになったのです。

しかし、事務所に所属したから未来が開けるなんて思わないでください。簡単に仕事も決まるわけではありません。

ぼくは、みなさんをこの事務所に入れてあげたなんて気持ちはこれっぽっちも持っていません。ぼくを含め、ZACCOに参加したのです。

ぼくたちは、これからだと思います。これからどうするのか、どうしたいのか。それぞれが考えて下さい。そのサポートをZACCOがやります。

一緒にやってみたいと思う俳優が、今回集まったと感じています。

決して将来の安定も安心もありません。大いなる不安を感じながら悩みと同居しながら過ごしてください。それは、スタッフも同じです。

2009年、どんな航海になるのか……いい船出になるよう、がんばりましょう!」

ザクッとした挨拶かもしれないが、気持ちはこういうことだったのだ。

2009年がどんなことになるのか、さっぱり見当もつきません。

ぼくたちは、緊張を強いられる時代で生きているのです。

しかし、能天気に楽しく過ごしたいと願っているのも事実です。

とにかく謹賀新年であります。

 

「音楽と人」2009年2月号掲載