ことば

COLUMN

第85回「イランにて」

生きていると、いろんなことがある。

本当にあるんだ、いろんなことが!

えっ、たとえばって? だから、あるんだよ! いろんなことがぁ!!

 

仕事のことを書こう。久しぶりに仕事について書こうと先月末から決めていたんだ。

ぼくの仕事の中心は、演ずることにある。

ありとあらゆる役を、いろんな場所で演じることだ。

うまくいったり、いかなかったり、嬉しかったり、そうじゃなかったり……それだっていろんなことがある!

 

「大杉さん、仕事でイランに行くことになりましたよ」

「えっイランって、あの……中東のイラン?」

「そうです、イラクの横にあるイランです」

「ホントかなぁ、いや本当にイランで撮影するのかなぁ?」

実は以前に映画でスペインに行く予定が、予算等の都合でスペインロケではなく、冗談のようだが、なんと渋谷にあるスペイン坂で在日スペイン人を大勢集めて撮影したことがあったのだ。ぼくとしては、スペインに行けることをとても楽しみにしていたのだが……。

「大杉さん、ここをスペインのアンダルシア地方だと思ってくださいね!」……って、スタッフからの熱い懇願。普段は穏やかなさすがのオイラも……イヤイヤそりゃあ無理でしょ、だってここ……渋谷だもん! NHKだもん! 渋公すぐ近くだもん! そんなん無理無理!! しかしだぁ見事というか、これぞハイテクというか……悔しいかな出来上がった作品を観ると完全にそこはスペインと化していたのだ。イヤイヤ本当は渋谷だったんだけどぉ!

ええっと、さて本題に戻ろう。

過去のほろ苦い経験をよそに、今回は本当にマジでイランに行くこととなった。

〈イランへの撮影の旅〉という栞の注意書きには、宗教上等のこともあり、その心得がかなり詳しく書かれていた。

女性は、肌の露出は厳禁。身体のライン(特にお尻)が見えない長めの洋服を着て、顔以外はスカーフで隠す。飲酒は全面禁止、お酒の持ち込みも駄目!

治安はあまりいいとは言えず、夜間外出は控えるように。外出は、必ず地元の通訳の方と。写真も撮ってはいけない場所がたくさんあり、もし発見された場合、深刻な状態になることもあり得る……と書かれていた。これっ本当のことです。

空路は、成田〜テヘラン直通便で12時間ぐらいなのだが、今回は関空発ドバイ経由でイランの首都・テヘランへの約27時間の移動となった。

空港からホテルまで約一時間。高速道路の通行量は日本の比じゃあない大渋滞! しかも、すごい排気ガス! 規制がほとんどないのだろうか、70年代のビンテージものの日本車もたくさん走っている。聞くとガソリンが1リツトル10円だそうだ、10円だよ!  さすが産油国! しかし、一番の驚きは、彼らの運転にあった。日本だと彼らは即刻免停だろう。割り込みやウインカーなしの進路変更は当たり前、多少の接触なんてまったく気にもかけず、しかも飛ばす! 渋滞だというのに無茶飛ばすんだっ! イランの道路は、サーキット場で、運転手はレーサーだぁ! バイクのほとんどは三人乗り、中には四人乗りもいるんだぁ。しかも全員NOヘルメット走行! 日本なら文字通り全員が”族“となるだろう! 彼らは、なにかから逃れるように車を走らせる……これがぼくの印象だ。

 

ホテルに到着、先発していた日本人スタッフが温かく出迎えてくれた。顔見知りの日本人女性スタッフも全員ショールを頭からかぶっている。これがなかなかイカしているのだ、見せることより隠すことの方が、想像力が働くってかぁ……ワッハこれも教訓!?

「大杉さん、長旅で今日はお疲れでしょう。ホテルでお休みください。もし外出するのでしたら……彼らと一緒にお願いします」

と、スタッフに紹介されたイラン人の通訳の男性。

「大杉さん、お久しぶりです。私のこと覚えていますか。私はあなたと6年前に東京でお会いしています。それは映画です。『旅の途中』というイラン映画、覚えていますか」

「はいっ、もちろん……ああっ、あの時の……もしかして俳優の……ええっと」

「そう、モハメドですっ!」

こんなことってあるんだ。ちょっと劇的な再会だったのだ。

そしてもう一人のイラン人通訳が紹介された。彼も流暢な日本語でこう自己紹介をした。

「わたしの名前は、アリです。昔、埼玉の川越で7年暮らしました」

あとになって気づくのだが、ぼくたちの通訳は、ふたり合わせて……モハメド・アリ!!  すまんスッ……。

「では明日から早速撮影がありますのでよろしくお願いします」

「こちらこそ……ああっ……あああああ……パク……パク・チソン!? ……ええっ……なんでぇぇぇ」

ホテルレセプション脇をサッカー韓国代表、現在イングランド・プレミアリーグ・マンチェスター・Uで大活躍しているパク・チソンが何気に歩いていたのだぁぁ!

「パッ……パク……パクッ・チッソンがぁ、歩くってなぜ……なぜっここにぃ!?」

「ああっ大杉さん、明後日ねぇイランと韓国のW杯の最終予選があります。韓国代表は、今ここのホテルに泊っているのですぅ」

年甲斐もなく興奮しているぼくにモハメドはこう淡々と説明したのだった。

※この「イランにて」は、当然来月号に続くんです! ワッハハ、待たれいっ!!

 

「音楽と人」2009年4月号掲載