ことば

COLUMN

第86回「曖昧でいこう!」

「あるがままに、相変わらずでいる」

俳優・笠智衆さんの言葉のなかにこんなフレーズがあった。

あるがままに、相変わらずでいることって……どんなことなのだろうか。

 

徳島の友人から電話がある。

「ああっ、大杉……元気してるか!?」

「おおっ、相変わらずやっとるわぁ」

なにが相変わらずなのか、およそ判らないのだが……その友人は「あっそうか、相変わらずかぁ、それはよかったぁ。わしも相変わらずやぁ……そうかそうか、相変わらずかぁ」と言う。

ぼくは、この曖昧で真意の所在がどこにあるのか明確ではない表現が好きなのである。

そして、こうも感じている。

相変わらずでいることとは、なにもしないことではなく努力のいることなのだと。

なにもしないで相変わらずを獲得することは決して出来ないのだ。

曖昧は決して甘くない……これは、ぼく自身に対する教訓でもある。

相変わらず……これって、きっと日本人的な独特な表現なのだろうか。

自分のことは棚に上げ、他人のことになると白黒つけたがるこの時代にとって、この曖昧さを失わないようにぼくは生きていこうと考えているのだ。

突き詰めることがいいとは限らない、その理由も……実のところ曖昧なのだ。

 

しばらくはないだろうと思っていたのだが、ライブをやった。

2009年3月11日・徳島ホール。今は閉館した映画館での音楽ライブ。

タイトル〈NO CHANGE〉……直訳すれば、変わらないということなのだろう。

こんな時代だ、変わらないなんてあり得ない。変わらないと言っても変わらざるを得ないこともある……だからこそ敢えて言うのだ、NO CHANGEだと!

 

変わらないこと

それは変わり続けること

生きる流儀は

NO CHANGE

きっと相変わらずにいるために敢えて曖昧に踏みとどまっていたいのだろう。

 

さてさてライブのことを書こう。

今回はなぜか初めのうちはチケットが思うように売れなかった。

過去6回のぼくのライブは、高校時代の友人たちが中心になって結成した〈ゴンタクレ実行委員会〉が企画・運営している。もちろん純粋な非営利ボランティア集団である。

ライブに必要なことはすべて自分たちの考えと手間でやる。イベント会社やスポンサーをつければもっと楽なことは充分に知っている。実際そんな申し出もあるが、ぼくたちは、大きな花火は上げない代わりに気持ちのこもった手作り花火を打ち上げている自負がある。

 

この予想もしなかった大不況も影響したのか、チケットの売れ行きがよくないことに少々焦ったのも事実だった。過去6回は、毎回満員だった。もちろんぼくの力不足もあると思う。そして3連休と重なり、高速道路の通行が一律1000円で四国から関西に渡れる日となると……みんな神戸や大阪へ行くよなぁ。

なんでこんな時代に手間もお金もかかるライブをやるのか……。

〈大杉 漣、1年4ヵ月ぶりのライブ、徳島の活性化に繋がる!〉……なんて新聞は都合よく書いているけど、そんなに簡単に活性化なんて出来るものではない。ぼく自身、そんな使命に燃えているつもりもない。そんなおこがましさは残念ながら持ちあわせていない。

本当のところは自分が楽しむため……と言っていいだろう。

ゴンタクレのメンバーは普段の生活では味わえない時間を過ごすことが楽しいと言っている……それでいいのだ、それで。

こんな時代だからこそ、簡単ではない手間のかかる〈面倒〉を敢えて自分たちの手でやる、それが大切であり必要なことだと思っているのだ。

やりたいことをやる……やっぱりこれに尽きるんだよなぁ。

それなのにチケットの売り上げをとても気にしている自分がいた。もちろん一人でも多くのお客さんに来ていただきたいと願うのも当然のことだと思うが、ほんとに大切なことは、結果ではなく、その過程にあるのだ。そう考えたらとても気が楽になった。

求めると決して手に入らないという、北野武監督の言葉をなぜか思い出した。

結果、当日徳島ホール280席のすべては埋まっていた。そしてぼくは、心から楽しんだ。お客さんも楽しんでくれたと思う。即興で「NO CHANGE」という曲も唄った。なんだか気持ちがいっぱいになった。

唄いながら、イランの町で知り合ったお爺さんの言葉がずっと頭の中を駆け巡っていた。

〈生きてるだけで丸儲け〉……ああっ、ここにも曖昧が転がっていた!!

 

「音楽と人」2009年5月号掲載