ことば

COLUMN

第87回「ユーミンさん」

ぼくは松任谷由実ことユーミンさんのことをよく知らない。

コンサートに行ったこともなければ、もちろんお会いしたこともない。

おそらく年齢は、ぼくが少し上かな。まあ調べれば詳しいことは分かるだろうが、今ここでそれが大切なことではない。

ユーミンさんとちょっと縁のようなものがあるとすれば、以前NHKのドラマで『中央フリーウェイ』という彼女の曲を唄いながら会社に行く、というサラリーマンを演じたことがある……その程度だろうか。

その時スタッフから渡されたその曲を何度も何度も練習した記憶がある。

「ユーミンの歌を口ずさむ大杉さんが……ほんとうに楽しみです。ムフッ」と監督の弁。ヤクザだってニューミュージックは聞くんだぁ……そんなことぼくが言ったかどうか。確かにぼくが普段親しんでいた70年代のフォークとは全く違う世界がそこにはあった。

 

ええっと、「片手で持つハンドル 片手で肩を抱いて」って、ぼくは車を運転しないからまずこの設定でこんな体験は出来ないし、風が吹いていようがいまいが、肩に手を置いて「愛してる」なんて絶対言えないだろうし……このぉ競馬場って、これっ府中だよね、ビール工場かぁ……ああっあるよなぁあそこに……なんと言うか、競馬場やビール工場で撮影することはあっても……夜空に続く滑走路のようなフリーウェイを走ることはないってぇぇ! オイラの過ごしてきた世界と違い過ぎ! ですわぁぁ……。

なんて、歌にひとり関西風突っ込みをしていたような記憶もある(ユーミンさま、スマン)。

 

そんな縁もゆかりもないユーミンさんのことをオイラが書くなんておこがましいのは重々承知だが、つい先日彼女の現在についてのインタビューをTVで観たのだ。

彼女は、笑顔を交えつつゆっくりと迫力ある自分の言葉で語り始めた。

 

「こんなアルバム(CD)を売れない時代になぜ発売するのですか」と司会者。

「もちろん今がどのような時代かはわかっています。わかっていますが、それは〈アーティストの性(さが)〉なんです。作り続けなければ表現者として死んでしまう。それは経済としての活動とは一線を引くものです。ただ淡々とものを作り続けたい、そんな気持ちで歌を吐きだしたかったのです」

 

要約だが、このようなことをユーミンさんは言った。

〈性(さが)〉とは、計算出来ない初期衝動のようなものだと感じた。

もちろん彼女はスターであり、乱暴な言い方をすればこれまでの作品でも今後十分にやっていける立場にあるのだろう。だがユーミンさんはこんな言葉を吐いた。

 

「現在の私の目標は過去の自分を超えることです……簡単に曲(詩)は生まれません。悩んで苦しんでやがて言葉が出てくる……自分が曲作りで苦労していることなんて人にはあまり知られたくない。だって、わたしはユーミンですから!」

 

ぼくは正直アーティストという言葉があまり好きではない。

いつの時代からか、猫も杓子もアーティストって名乗るようになった。まさにアーティストだらけ!?の芸能世界。マジで……キミは自分のことをアーティストって思うのですか、と聞いてみたくなる時もある。

それはおそらく呼び方だけのことではなく、その本質を問うことなのだ。

 

しかしユーミンさんは、間違いなく本物のアーティストである。

30数年唄い続けた現在も、闘うアーティスト!である。

 

ぼくはスターでもなく地味な俳優だが、演ずるという世界で闘っている自負はある。

昨日より今日、今日より明日の自分を見たい……間違いなく老いていく現実のなかで、日々なにかを超えたいと思っている……それが簡単に手に入らないからこそ闘うのであって、演ずるという世界にこだわり続けるのだと思う。

そんな気持ちを代弁してくれたかのようなユーミンさんの言葉。

最後に彼女は、こんな言葉で締めくくった。

「私はこれまで絶えず変わり続けてきました。みなさんは、〈ユーミンはずっと変わらないで唄い続けている〉と感じていると思いますが、変わらないということは変わり続けることで実現出来るのです」

TVの前でひとり納得し小さくうなずく自分がいた。

先月終えたぼくのライヴ『NO CHANGE』のテーマのような言葉がそこにあったのだ。

そうか、ユーミンさんもそう考えているのか。それは、勇気の言葉だった。

ユーミンさんと自分の距離が少し近くなったような〈ひとりよがり〉がそこにはあった。

(追記)今度、初ユーミンライヴに行こう! おじさんのささやかな夢です。

 

「音楽と人」2009年6月号掲載