ことば

COLUMN

第91回「号泣ですよ〜」

号泣したんだ オイラ

自分でも予想しなかった……あんなに泣いてしまうなんて!

 

オイラ今年で57歳になる。当然だが結構な年齢になったものだと思う。しかし半面、なんだ大したことねえなぁ、こんなものかよ57歳!って感じることもある。

 

九月、新しい映画の撮影に入る。

脚本を読ませていただき、即答でやらせていただくことにした。

新潟県某町での実話に基づいた作品で、ぼくは主人公の父親役だ。

その町で九月に行われる本物の花火大会を中心に物語は進行する。実際に打ち上げられる花火を背景に一発勝負のかなり緊張した撮影現場となるのだろう。

ただし、ぼくがこの映画に参加するためにはひとつだけ条件があった。

「大杉さんとやりたいので……大変だと思いますが是非取ってください。お願いします!」そんな監督からの熱い要望もあった。

ぼく自身も父親役を演ずるには、それがなければ成立しないと感じていた。

 

それとは……普通自動車免許!

 

車の免許が必要なのだ。かなりの登場シーンで運転する箇所があり、しかも重要な局面もいくつかある。もうおわかりだろうか!?

そうなのだぁ、オイラぁぁ……運転免許をもっていないのだぁ!

 

とても意外な感じを持たれる方もいるかもしれないが、本当のことだ。普段、仕事場への移動は事務所のスタッフが運転してくれる。日常生活は歩きと自転車だけでなに不自由なく過ごしている。

近年の映画やドラマの運転等の撮影方法は、そのほとんどが牽引車か吹き替えでやっているため、格別免許がなくても成立していたのだ。

しかし、今回はそれでは済まされない!

「大杉さん、八月末までに免許を取得して下さい。とにかく免許がないと撮影出来ないシーンがいくつかありますから……がんばってください!」

「わかりました、ぼくもこの映画に参加したいと思っていますから、八月末までに免許取得を目指します!」

こうでも宣言しないと無精者のぼくの重い腰は上がりそうもなかったんだ。

 

ほぼ三ヵ月の猶予期間。

もちろん教習所に通うのが一番早道だということはわかっていたのだが、そんなときに限って仕事が忙しくなったりもした。

空いてる時間に習おうとすると、やはり個人練習しかなかったのだ。

実はオイラ、ほぼ七年前にも一度免許を取ろうとし、結果仮免手前で意志の弱さと集中力のなさで途中頓挫してしまった苦い経験がある。その時にとてもお世話になったOさんに今回もお願いすることにした。

Oさんは微笑みながらこう言った。

「事情はわかりました。しかしっ、今回は厳しく行きますよ! 八月末までに絶対取りましょう!」とてもありがたいサポートを受けることが出来たのだ。

 

限られた時間……連ドラ二本に単発の仕事をやりながらの練習は、精神的にも肉体的にもかなりきついものがあった。

まずは第一弾として、仮免の学科試験で東京・府中運転免許試験場へ行く。試験なんていつ以来だろう。受験者の中には何故ぼくがそこに来ているのか、不思議そうに見ている若者もいた。半分ぐらい不合格の中、結果一発合格した。

その後、仮免の実地試験に二回不合格……イヤイヤうまく運転出来たと思ってもなかなか合格出来ないのだ……ひとりで落ち込んだり……もう一生免許なんて取れないんじゃあないかと、諦めの心境になったり……そして……やっと三回目で合格!(嬉しかったよぉぉ)。周りの励ましもあり、無事なんとか仮免許証!を手にすることが出来た。

あとは本免学科と実地に合格すれば……。

仕事を終えて、次の日の撮影のために膨大な台詞を覚え、その後免許の学科を勉強しつつ、空いている時間に路上練習……本当に受かることが出来るのか、正直あせりもあった。八月某日、本免学科試験。これも一発合格! あとは実地の試験に合格するのみとなった。

 

痛いほど陽射しが強く、間違いなく地球はおかしくなっているぞ!と確信した日、ぼくは、東京・府中運転免許試験場にて本免実地試験を受けた。その日テレビの占いでは、天秤座は最高!と叫んでいた。ラッキーカラーは白……速効黒Tシャツから白Tシャツに着替えた。そして……。

八月某日午後一時、試験車には四人の受検者が同乗。ぼく以外、試験官も含め全員女性だった。小金井コースというところを走る試験、指定走行と自主走行。とにかく落ち着いて平常心で行こうと自分に言い聞かせ、なんとか試験を終えることができた。

そして結果発表……四人のうち最初の二人は、不合格。次に呼ばれた女性は、その表情からどうやら合格されたようだ。そして最後にぼくが呼ばれた。

「ええっと、大杉さん。左折右折の確認が少し遅いですね……しかし、性格がよく出てらっしゃる運転というか、やさしくって穏やかな運転でした。お仕事で必要なんですか……はいっ、おめでとうございます。合格です!」

府中運転免許試験場実地試験カウンター前で……あふれる涙を拭くこともせず泣き続ける自分がいた。恥ずかしくなんかなかった。それよりもなによりも嬉しかった! 女性教官がほほえみながらティッシュをくれた。それでまた声を上げてワンワン泣いた……泣いた。

九月、ぼくは新しい映画で運転をします!!

 

「音楽と人」2009年10月号掲載