ことば

COLUMN

最終回「やんちゃな雑魚」

ぼくにとって8年ぶりの舞台『象』もあと一週間で楽日(最終日)を迎える。

今日は、休演日。

ぼくの足元には、ここのところゆっくり遊ぶことも出来なかった風(チワワ)と寅(スコ ティシュ)が気持ちよさそうに寝そべっている。

東京は、あいにくの雨、もちろん外出する気はない。

正直言えば、抜け殻のような状態のオイラがここにいるのだ。

 

昨日は昼夜二回公演ということもあり、身体のアチコチが痛いっ!

休憩をはさんで、約三時間の舞台。若干のインターバルを除けば、ほぼ出ずっぱりの舞台。ぼくの演ずる役が老いた病人ということもあり、制約のある中腰・猫背というかなり無理のある姿勢で演じている。しかも舞台装置が平面ではなく大量の衣服等でデコボコ状態なので身体への負担も大きい。そして、なんと言ってもそんな舞台で喋る膨大なセリフの量! 先月号に書いたが、舞台をやるならぼくにとって手間のかかる作品を選びたかったのだ。簡単に即答出来ないこと、もしかしたら答えも出ないかもしれない表現世界をただただ彷徨うことになるかもしれない……そんな尋常じゃあない緊張感を持たなければ 成立しない作品を、ぼくはやりたかったのだと思う。

舞台を作り上げるまでのハードルが高ければ高いほど、それを乗り越えた時の喜びは大 きい……当たり前のことだが、そんなことを改めて実感しているのも確かだ。

一喜一憂するライヴ感満載の日々といっても過言ではない、今はそんな時間を過ごして いる。舞台表現の深さやその喜び・恐ろしさを改めて感じているのだ。

 

さてさて、この「音楽と人」に連載を書き始めて何年になるのだろうか。 最初の、〈ハモニカの味〉から〈ゴンタクレが行く〉まで含めると10年近くなるのかもしれない。

テレビや映画等のあらゆる現場での雑感や俳優としての表現への思いを自分なりの不器用な言葉で正直に綴ってきたつもりだ。書きながらぼく自身がその時に考えていることを確認したり発見することもたくさんあった。書くことで教わることもあるんだなと感じた。

俳優になって36年が経つ。長いのか短いのか、ぼくにはわからない。

そのうち16年間は劇団に所属、あとの20年間が映像中心の活動ということになる。もちろん一人でここまでの時間を過ごしたなんて思ってはいない。本当に多くの人たちとの出会いがあり、そしてなによりも家族やスタッフの支えがあったからだと痛感している。 オッとなにも自分のこれまでを回顧したり総括しようなんて思っているのではない。これまでもこれからも、相変わらずのぼくであるためにゴンタクレは行くのである。行かせてもらうのである。

俳優になろう・なりたいと思う人がたくさんいる。キツい言い方かもしれないが、なろうと願っていればなれるものではない。才能があればなれるものでもない。 どんな世界でもそれは言えることだろうが、勉強が出来るから、それでOKというわけにはいかないのだ。

じゃあなにかというと……スマン、正直オイラにもわからないのである。

ぼくは、所属していた劇団が解散していなければずっと舞台をやっていたと思う。

解散してひとりになったから映像の世界に足を踏み入れたのだ。そして、そこで出会った作品や監督が、58歳になる今日まで俳優としての課題を与え続けてくれたのだと思う。

ぼくの青年期は、今の時代と違いとてものどかだったのかもしれない。もちろん将来への不安も多少はあったが、根底にはいつも〈ケ・セラ・セラ〜どうにかなるさ〉の精神があった。実際これまでもだいたいどうにかなってきた。もちろんどうにもならないこともあったのだろうが、そのほとんどは触れないか忘れることで事足りてきた。そのくらいの構え方や覚悟のほうが、表現の領域に足を踏みとどまるに相応しかったのかもしれない。繊細さも必要だが鈍感でいることも大切なのだ。

夢をあきらめない!という言葉に踊っているうちはまだまだなのである。〈箸が転んだら笑う〉という言葉がある。表現する人は、まさに箸が転んだら笑う人である。ぼくはこう思っている、箸が転んだら笑う人を笑う人になってはならないと。

僕の所属する事務所へ〈ZACCO〉の由来は、雑魚(ざこ)から来ている。雑草とも通じる ものがあるかもしれない。どんな水(現場)でも泳いでみせる! しかも逞しく元気良く……そんな想いがあるのだと思う。

そしてゴンタクレとは、徳島の方言で不良という意味がある。もちろん極悪なものでは なく、かわいい〈やんちゃ者〉といった方が正解かもしれない。

そうオイラは、やんちゃ者の雑魚になりたいのだ!

 

明日からまた戦場のような舞台が始まる。体重も自然と四キロ落ちた。ますます病人らしくなってきたらしい。残り一週間、オイラは怯えて吠える犬になる!

 

どうか皆さん、お元気で!

 

「音楽と人」2010年5月号掲載