ことば

COLUMN

連載8「一生下積み」2000年3月5日号

 今年も各映画賞の発表の時期になった。昨年、ぼくも「HANA-BI」「犬走る・DOG RACE」などで10個の助演男優賞をいただき”励み“という大きなご褒美をいただいた。あれから1年が過ぎた。
 「賞をもらうといろいろなことがずいぶん変わりますか」、取材で必ずと言っていいほど聞かれた。「いやなにも変わらないし、今まで通りですよ」、幾度となくそう答えた。生まれ故郷徳島で取材を受けたとき、一人の記者がこう言った。「賞を取って故郷に錦も飾れたし、下積みも終わりましたね」、何と答えていいのかわからなかった。ぼくは、劇団時代から現在まで自分のやってきたことを“下積み”と考えたことは一度もない。やりたいことをやってきただけだ。アンダーグラウンドと呼ばれた演劇も低予算自主映画もロマンポルノも“面白い”と思ってやってきただけだった。何かを目指すための通過点でもなく、それそのものが面白かった。
「下積みというものがあるとすれば、ぼくは一生下積みです」、そう答えるのが精いっぱいだった。
 受賞後の1年間、多少のとまどいもあった。<今まで通りですよ>と答えながらも、”人がぼくをどう見ているのか”に対する意識が強かった感じがする。”人に良く思われたい”、そんな気持ちがあった。賞をもらったのだから演技は大丈夫ということは絶対ない。納得できず落ち込むことは相変わらずだ……しかし、これが自分の仕事である。<今まで通りですよ>と答えた気持ちの中に<今まで通りでいたい、もしくはいます>という望みとささやかな決意があったのかもしれない。賞の枷が少し解け始めた、そんな気がしている。
 先日、大島渚監督が「御法度」のメーキングの中で「ぼくはトップにいないかもしれないが、映画の最前線にいるんです」とおっしゃっていた。背筋が伸びた。大杉、一生下積め!