ことば

COLUMN

連載10「ここにも映画あり」2000年3月19日号

 連載4で新潟の高校生監督・田巻源太君の映画について書いた。その後、「映画は撮影したんですか」「もし上映することがあればお手伝いします」「僕もシナリオ書きますから出てください」など、ぼく自身、戸惑ってしまうほどのうれしい反響をいただいた。 映画の撮影はすでに終わっていて、あとは編集と音入れを待って完成する。
 撮影日数2日間、総予算30万円。そのほとんどは田巻君がアルバイトで稼いだお金だという。キャメラは、新潟映画塾からお借りした16ミリキャメラ。スタッフはほとんどが田巻監督の友人、つまり高校生だ。
 その日の新潟は雨だった。駅に出迎えてくれた田巻監督が、小さい声で「こんにちは」と言った。「あっ、こんにちは・・・・・・大杉です」。“おはようございます”ではなく“こんにちは”・・・・・・業界用語ではない挨拶が、すごく新鮮だった。
 すぐに撮影現場の田巻監督の自宅に向かった。いよいよ『黒いカナリア』の撮影が始まるのだ。車の中でぼくらは、黙ったまま雨の街を眺めていた。現場に着くと予想を超える人数のスタッフがいた。田巻君のご両親も、これから息子がやろうとしていることを遠くから静観されている様子だった。
 プロと呼ばれる人々の仕事は、当たり前のことが当然のように成り立っている。当たり前だ、プロなんだから。
 しかし、ここでは違う。“それはこうするんだよ、そうじゃなくてこっちのほうが……”と、ヒヤヒヤすることも確かにあった。しかし、あえて何も言わなかった。いつも通り“俳優”に集中することにした。教えることよりも感じ取り学び取ることが大切だと思ったからだ。
 雨続きの2日間、なんとか撮影はクランクアップした。彼らの顔は、戦い終えた兵士のようだった。
 <なぜぼくはここにいるのだろう>。ふとそう思う。その問いの答えはすぐに見つかった。ここにも”映画”があるからだ。
 後日、田巻君と連絡を取った。受験があり、それが終わってから完全に仕上げるとのこと。出来れば東京でも上映したい旨を伝えた。電話の彼は、すっかり普通の高校生に戻っていた。