ことば

COLUMN

連載11「味わう現場」2000年3月26日号

 毎号、このコーナーには写真を使わせていただいている。そのほとんどが“現場写真”だ。
<そうだ、今回はぼくの大好きなあの監督のことを書こう>。さっそく写真を探し始めた。しかし、ないのだ。俳優やスタッフと撮った写真はたくさんあるのに、監督とのツーショット写真がない。おつきあいが始まって10年、その間に出演させていただいた映画・ビデオなどの作品は18本もあるというのに。
 取材でも必ず監督のことを聞かれる・・・・・・しかし、写真がないのだ。今、ヨーロッパで「日本でもうひとりの“クロサワ”がいる」と話題の黒沢清監督だ。
 黒沢監督はとても静かな方だ。ぼくの経験では現場で怒鳴ったりしたところを一度も見たことがない。常に“観察者”のように、人を、現場を、そして映画そのものを見ている方だと思う。観察者というと冷たい感じがするかもしれないが、決してそうではない。スタッフもキャストも実に楽しそうに“黒沢組”を味わっている。
 一度でも黒沢組を味わってしまった俳優さんは、必ずと言っていい程「次も出たい」と言う。もちろん、ぼく自身もそうだが、その理由を問われてもきっと説明のつかないものだと思う。たとえば、おいしいものを食べたときに「うまい!」という感覚に似ている。”うまい“の理由はいらない、味わえばいいのだ。
 そんな黒沢さんの新作「カリスマ」が公開中だが、その撮影現場で役所広司さんと話した。
 「黒沢さんの映画って不思議ですよね」
 「うん、うまく言えないけど面白いんですよね」
 「ぼく、10年もおつきあいしているのに、なんかこう・・・・・・監督について何を知っているのか」
 ・・・・・・お互いの印象にそれほどの距離はない、そんな気がした。ただ、黒沢清監督の独特の世界に触れること、その現場を味わうことがすべてだと思う。