ことば

COLUMN

連載12「幸せな一日」2000年4月2日号

「さっきのシーンは90秒あったので今度もそれぐらいはいいですから、じゃ、本番」・・・・・・芝居のテストなしでいきなりキャメラがまわり始めた。こんな経験は以前にもあった。北野武監督「キッズリターン」。ぼくの役はタクシーの客(リストラされた課長)。武さんがこう言った。「台本にはないけど、自分の言葉で漣さん3,4分しゃべって」。台本通りなら5秒で終わるシーンだ。あとは“アドリブ”でいくしかない。<水は高いところから低いところに流れる>。高校時代の数学の丸山先生の言葉が浮かんできたりする。なるようにしかならないってことか。相手役の浅野忠信さんはニコニコしながら<いつでも受けて立ちますよ>って顔だ。ウーン、緊張するが楽しい!
 最初に出た言葉が「紅茶キノコ」。紅茶・・・・・・キノコ?そんな見たこともない代物がどうして浮かんだのだろう。監督やスタッフが笑いをこらえているのを感じた。計算しても仕方がない、その場で起きたことがすべてなんだと思った。まるでJamセッションのように現場は進んでいった。石井克人監督「Party 7」。たった1日の参加だったが実に楽しく意味あるものだった。石井監督第1回作品「鮫肌男と桃尻女」のオファーも頂いたのにスケジュールの都合で参加できず、ぼくにとっては「やっと会えましたね」という感じだ。浅野忠信さんとも彼が高校生の時に共演して以来の再会だった。
「元気だった」「ええ」、お互いに照れたように挨拶した。10年経って彼は日本映画を代表する俳優になっていた。虚飾なく“いる”ことの出来る人だと感じた。監督にとって主役は<本妻>的な位置にある。脇役は<愛人>なのかもしれない。文字どおり<愛しい人>になりたい。
 ”人と出会う”。何でもない言葉だが、その意味は大きい。
「Party 7」、どんな作品になるか、今から楽しみな映画だ。