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連載26「アベモン・2」2000年7月16日号

 大谷健太郎監督デビュー作「avec mon mari」(略してアベモン)。
 製作予算のこともあり大きな撮影クルーを組むことも出来なかった。映画によっては百人規模のスタッフがいる場合もあるが、「アベモン」は十数人の編成だった。その中には、映画の現場が初めてというスタッフもいた。しかし各パートがやるべきことをしっかりやれば、少ない人数でも映画は実現するのだ。
 ぼくたちは、手作りのイカダで映画という海に船出する<漂流家族>のようだった。立派な機材も豊富な資金もなかったが、一本一本の木をつなぐ太い精神の綱があった。
 ロケ地は、鎌倉。スタッフの友人のお宅をお借りして撮影は始まった。まさに「アベモン」にふさわしい場所だ。セットとして作り上げた虚構の空間ではなく、どこにでもある日常的空間がそこにあった。
 撮影が順調に続いていたある日、ぼくの事務所から連絡がきた。「大杉さん、たけしさんがとりました」「えっと、とったって・・・・・・何とったの」「ですから、イタリアのヴェネチア映画祭でグランプリを獲ったんですよ」
 それは、ぼくも出演している北野武監督の「HANA-BI」が一等賞をもらったという報せだった。テレビのニュース速報でもやっていたらしい。休憩時間、いつものようにみんなと大いなる無駄話で盛り上がっていた時、「アベモン」のプロデューサー・武藤起一さんが花束を抱えて現れた。「大杉さん、受賞おめでとうございます」そこにいた全員が拍手した。お金を出し合って買ってくれた花束で涙を隠すのが精いっぱいだった。自分たちの映画ではないのに心から祝い、喜んでくれたのだ。
 ぼくは「アベモン」にかかわったすべてのスタッフ・キャストのことを忘れない。そしてまたいつか、次なる作品で再会できることを心から願っている。