ことば

COLUMN

連載27「過酷な楽園」2000年7月23日号

 10年近くたつだろうか。フジテレビの深夜番組に「悪いこと」という番組があった。人間の心におそらく潜んでいるだろう<ちょとした出来心や悪意>をクローズアップした面白い企画だった。その第1回の作品で<通勤電車のなかで痴漢行為をさせられてしまうサラリーマン役>で出演したことがある。
 セリフがほとんどなく顔の表情だけで演技しなければならないという大変さもあったが、俳優としてやりがいのある作品だった。その演出をされたのが落合正幸監督だった。
 その落合監督が、現在「世にも奇妙な物語・劇場編」を撮影している。雪山に不時着した飛行機から脱出した乗客の混沌を描くちょっとホラーな映画だ。
 日活撮影所No.11に巨大な雪山のセット。ジェットファンという化け物のような扇風機で猛吹雪を人工的に作り、その中で連日連夜撮影が続いている。吹雪用に使われている塩と片栗粉が全身にこびりつき、そのまま油に入れていただければ<から揚げ>の出来上がり。
 これまで汗まみれの現場は数多く体験したが、粉まみれの現場は初めてだ。
 しかしどんなに体がきつくても映画を撮っている喜びのほうが勝るのだ。深夜12時の夜食タイム、共演者の矢田亜希子さん、鈴木一真さん、宝田明さん、そしてぼくらよりもっと大変なスタッフが、白塗りの舞踏団のような形相でスタジオから出てきた。なんでもない外の空気がこんなにうまいとは。
 今日のメニューは、宝田明さん特製のトン汁だ。食事をしながら宝田さん東宝時代の話を伺う。黒澤明監督や三船敏郎さんのエピソードは、現場にいた人間でなければ知り得ないリアルで貴重な内容だった(破天荒な天才が昔いた)。
「撮影を再開します!」
 つかの間のブレークタイム。愛しい背中の隊列が、スタジオに戻っていく。