ことば

COLUMN

連載29「走る舞台挨拶・1」2000年8月6日号

 ぼくはサッカーが好きだ。メキシコ・オリンピックで日本代表が銅メダルを獲得した頃、ぼくは綿のトレパンでゴム製サッカーボールを蹴り始めた。ボールを蹴り合い、相手チームのゴールに得点をする。そんなシンプルなスポーツに熱中した。そして、現在も熱中している。
 「鰯クラブ」。それがチーム名だ。鰯という魚の庶民性と独特の味わいが、ぼくらのサッカーに対する思いと重なったのかもしれない。結成10年・登録メンバー35人。その半数は、創立メンバーで現在もプレーしている。大いなるシニア草サッカーチームだ。
 ご存知のように、サッカーは走るスポーツだ。ぼくの年齢になると、走るスピードもスタイルも確実にオジサンMODEに突入する。走りながら「ぼくは死ぬんじゃないだろうか」と感じることすらある。役者ならば舞台の上で死ぬのが本望という人もいるが、ぼくは嫌だ。サッカー場でぼくの強烈な左足ボレーシュートがゴールした瞬間にイレブンが駆けよって、その喜びの渦の中で死んでいく方がいい(その前にボレーシュートを練習する必要があるが)。
 イレブンには、映画関係者・サラリーマン・俳優ら、様々な職種の人が参加しているが、ぼくらには暗黙の了解事項がふたつある。ひとつ<仕事の話をしない>、ふたつ<サッカーを楽しむ>……これだけは言っておきたい。鰯クラブはJリーグより1年古い歴史を持っているのだ!
 季節は夏。これ以上望みようもないサッカー日和。その日の場所は、代々木公園内サッカー場。11時、キックオフ。といっても、試合形式は厳密にではなくアバウトに対戦チームと決める。拮抗したいい試合をやっていた。そしてハーフタイムにぼくの携帯が鳴った。
 「大杉さん、まだですか。もうみなさん来られてますよ。打ち合わせや着替えもあるのですぐ来てください」
 「あぁぁぁぁ」
 マネジャーの高岡さんからの冷静な電話だった。そう、今日は渋谷シネ・アミューズで、1時から崔洋一監督「犬、走る/DOG RACE」の初日舞台挨拶がある日だった。