ことば

COLUMN

連載31「不貞の季節」2000年8月20日、27日号

「廣木監督がね、SLの映画撮るんですよ」
「へぇー、そうなんだ。以前も『ゲレンデがとけるほど恋したい』というスノーボードの映画撮ってるからね。そうか、今度は古い汽車を使うのか」
 ちょっとした沈黙の後、マネジャーT女史はこう言った。
「あのですね大杉さん、LじゃなくてMなんです」
 洋服のサイズじゃないのは確かなようだ。
「LじゃなくてMか……ということはSとM……SM?」
 彼女は、うれしそうにうなずきながら台本を手渡した。
 タイトルは「不貞の季節」。原作・団鬼六、脚本・石川均、監督・廣木隆一。ぼくの役は、そのSM小説家・黒崎悌造。
 小説家である男は、純文学を志していたが、今はSM小説を書いている。妻は、男の小説をエログロだと否定しつつも、男の担当編集者と不貞をはたらいている。男は、妻に嫉妬しながらその苦しみの中で、妻をモデルとした一本の小説を書き上げる。だが、このあと2人は(ウーン書きたいけどやめておきます)。
 実に面白い台本だった。男が妻に対して、一生懸命になればなるほど滑稽でお間抜けで、だから余計に悲しかった。台本を読みながら、主人公・黒崎の姿を具体的に考え始めている自分がいた。まだこの世に存在しない男の姿が、波間に漂う漂流物のように浮かんでは消えた。
「やらせてください!」
 即答だった。製作予算も潤沢にある映画ではなかったが、作品としての面白さを強く感じた。随所にSMというディープなシーンもあるが、確実に<人間の姿>がそこにはあった。
 かつて70年代から80年代にかけての、ぼくの愛すべき映画フィールドでもあった日活ロマンポルノの薫りを感じずにはいられなかった。
 「不貞の季節」は、股間から生まれた大いなる中年恋愛映画だ!恐縮です。