ことば

COLUMN

連載33「近き友」2000年9月10日号

 東京・銀座の松竹会議室に彼はいた。ぼくらは以前からの知り合いのように握手をした。
 「北野武監督の『ソナチネ』と『HANA-BI』を拝見しました。私の映画の父親役を引き受けてくださり、感謝します」
「とんでもない、こちらこそ!プロジェクトに参加できることをうれしく思っています」
 彼とは、李在容(イ・ジエヨン)監督、35歳。2年前「情事」というデビュー作が韓国で評価され、第2作の韓国と日本の合作映画「純愛譜・スネポ」の撮影のために来日していたのだ。
 ソウルで日々の生活に倦怠している男と、東京で自分の死を夢見る少女が、インターネットの匿名サイトを通じて偶然出会い、新たな人生を歩んでいく……そんな物語だ。少女の両親を余貴美子さんとぼくがやらせていただくことになった。
「何げない日常が何げないままそこにある、そのことを撮りたいのです。特別大きな演技を必要としない、むしろ日本の家庭のさりげなさを望んでいます」
 紳士的で丁寧な柔らかさを含みつつ、自分が何を描きたいのかを確実に持っている方だと感じた。監督自身、シナリオを書く目的もあり、しばらくの間東京で生活をしたらしい。
 そういえば、ぼくにとって韓国映画は2本目になる。98年、金想辰(キム・サンジン)監督「遠くて近き友」(邦題「極道修行/決着」)に出演した。今回の李監督とは対照的な熱い監督だったが、ぼくの印象として2人に共通して言えることは、異国での映画作りを<いつも通りに楽しんでいる>ということだ。
そこに国境はなく、言葉の違いも大きなことではない。ぼくたちは<映画>という共通言語で結ばれているのだ。
 フランスWカップ予選、ソウルの蚕室五輪競技場で<日本よ!共にフランスに行こう!>という韓国サポーターの声をぼくは忘れない。<近き国の近き友>がそこにいる。