ことば

COLUMN

連載34「LIVEなライブ」2000年9月17日号

 先日、廣木隆一監督「不貞の季節」の公開記念として、恵比寿のクラブでイベントライブがあった。
 準備期間があまりなかったものだから、お客さんは来てくれるのだろうか、ましてや音楽には素人のぼくが、バンドを組んで歌まで歌うことになっているのだ。イベントの前日にタイから帰国して、バンコクの尋常でない排気ガスと旅の疲れで体調も最悪だった。しかし、ぼくにはこの状況から逃れる方法も理由も見つけられなかった。
 不安と緊張を抱きながら、ぼくは控室で自分の心の所在を探していた。
 控室には、松重豊、田口浩正、柏原崇、ジョビジョバ、久本雅美、光石研(敬称略)……たくさんの友人が次から次に訪れてくれた。自分たちが出演していない映画のイベントにもかかわらず駆けつけてくれたのだ。
 なんと光石研さんは、今日この日のためにわざわざ友人と<偽クレイジー・研バンド>を結成して、初めて歌を披露してくれるという。田口浩正さんとジョビジョバは、即興で歌ってくれると言っている。その日、やはり言葉少なになっていた<ハージー・カイテルズ>の相棒・田口トモロヲ君が、
「なんか、すごいことになっちゃったけど……大杉さん、楽しんじゃいましょうか!」
 確かにそうだと思った。ぼくが、そして自分たちが楽しまないでどうするというのだ。
 開演間際、スタッフの方が、
「大杉さん、外は大変なことになってますよ。入りきれるかどうか、とにかくすごい人なんです!」
 と教えてくれた。ぼくらの手作りの企画にたくさんの方が立ち会おうとしている。遠くからこの日のためにわざわざ来てくださった人がいることも知っていた。
 不安・緊張・快感・そして涙、とにかく全身が汗だった。一人で舞台に立ち、一曲歌い終わった時、客席からサッカーボールが手渡された。そこにはファンの方々の思いがつづられた寄せ書きがびっしりと書きこまれていた。
 ライブが終わっても汗は引かなかった。涙もろい等身大の中年男がそこに突っ立っていた。