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COLUMN

連載35「サンデー毎日と殺し屋ジョー」2000年9月24日号

 先日、下北沢で赤い髪の若者がいきなり話しかけてきた。
「あの、大杉さんですよね!」
「はい……」
「ぼく、将来映画を撮りたいと思ってるんです。大杉さんの出演した作品いっぱい見ています……秀吉、堀部、ええっとヤンさん……サインしていただけますか!」
 ぼくに声をかけるには、おそらく彼なりの小さな決断があったのだろう。緊張のために顔まで赤くなり、首から上がマッカッカだった。
「ぼくね、普通のおっちゃんだから安心していいよ。ちょっと座ろうか」
 予想していなかったのだろう。
「いいすか、こんなところに座っても」
「うん」
 ぼくはきつめのタバコを彼に差し出した。
「ああっ、未成年だから。スイマセン」
「えっ、そうなの。いくつ?」
「17っす。高校中退して。ああオレ、いまこうやって大杉さんと……座って……暑いし……サインください」
 彼はそう言いながら、ボブ・マーリーがプリントされたバッグからサンデー毎日を取り出した。
「なに、サンデー毎日!」
「これにサインお願いします」
 その号の表紙は筒井康隆さんだった。
「表紙にドンとお願いします」
 筒井さんが扇子を持ってかすかに笑っている。ぼくは、筒井さんの顔にかぶさらないようにやや小さめの<大杉漣>を書いた。
「殺し屋ジョーって横に書いてください。サブ監督の『ポストマン・ブルース』のあの大杉さんが大好きなんです」
 彼の願い通り書き添えてみたら、筒井康隆さんが殺し屋ジョーになってしまった。
「ありがとうございます。大杉さん、いつか必ず映画撮りますから。その時は出ていただけますか!」
「うん、いいよ。待ってるから」
握手した時、彼が初めて笑った。その顔は、あどけない17歳の少年だった。赤い髪の少年君、ほんとに待ってるからね!