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COLUMN

連載41「SWICH!」2000年11月5日号

 3年前に「雷魚」という映画が公開された。実際にあった事件をモチーフにした作品で、生々しい人間の暗闇がそこにあった。見終わった後のささくれたような皮膚感覚を今でも覚えている。廃墟のようなコンビナートの街、テレクラでしか自分の存在証明ができない太った女、通りすがりの愛なき乾いたセックス、運河で焼かれる船と死体、行き場のない男女の彷徨・・・・・・。いくつものシーンが記憶の中に強烈に残っている。監督は瀬々敬久。
 機会があれば瀬々作品に出演したいとずっと願っていたのだが、それがやっと実現した。映画「SWICH!」。企画・哀川翔/神野智(黒沢清監督作品をほとんど手がけている)、脚本・井土紀州(彼こそが「雷魚」の脚本家だ)。主演は韓国映画「シュリ」のヒロイン、キム・ユンジンと哀川翔。
 ぼくらは、富士山の溶岩台地の上にポツンと建った<ARIZONA>と書かれたハンバーガーショップにいる(もちろんセット)。哀川さんが、
 「今年の2月ぐらいから企画を考え始めたんですよ。ハチャメチャで無国籍な映画やりたいって。何回も何回も書き直ししてさ、原稿用紙の厚さが15センチぐらいなるまで書き直したんですよ」(笑)
 大変な作業を踏んできたにもかかわらず、本当に楽しそうに話す。その横でキムさんが気持ちよさそうに<日本の風>に吹かれている。あの「シュリ」の女優さんが目の前にいるのだ。
 「これってさ、何気なくすごいよねぇ」
 確かにすごいことには違いないが、そんな時代になったのだ。
 「SWICH!」と「雷魚」は対照的な映画だ。しかし、そこには瀬々監督の<戻り道のない人々>に対する冷静でやさしい視線が刻み込まれている。
 風は、すっかり秋だ。振り向いたら富士山が、ぼくらをのぞいていた。

※公開時のタイトルは「RASH!」