ことば

COLUMN

連載42「森崎東監督と殿山泰司さん」2000年11月12日号

 ソウルオリンピック記念芸術祭に参加するために、慌ただしい毎日を劇団(転形劇場)で過ごしていた1988年の夏。
 「大杉さん、電話」
 「だれから・・・・・・?」
 「近代映画・・・・・・なんとかって」
 ささくれだった手で電話をとった。
 「はい、大杉です」
 「はじめまして。近代映画協会の石川と申します。実は森崎東監督がテレビを撮るのですが、それに出演していただけないかと思いまして。大杉さん、テレビはやりませんか?」
 「いえ、そんなこともありませんけど・・・・・・」
 「では早速なんですけど、今日の夜でも森崎監督とお会いできますか」
 ずいぶん性急な話だったが、なにか予感のようなものを感じたので出かけることにした。
 その年の末には、劇団が解散することがすでに決定していた時期だった。
 <沈黙劇>という特殊なスタイルでしか演ずることをしてこなかった男が、はたしてテレビという枠にどうおさまるのかわからなかった。ぼく自身の<これから>について、何の展望も持てなかった時期でもあった。
 赤坂の、これぞ70年代!というべき都会の陰部のような純喫茶。威風堂々とした羅紗の紫色ソファに、登山家のような帽子とサングラス、そしてなぜかマスクをした筋金入りの犯罪者のような人がいた。それが森崎東監督だった。
 「監督、大杉さんです」
 「ウーン、確かに目つきはよくないね。わかりました。じゃよろしくお願いします」
 坦々と監督は、そう言った。海千山千のアンダーグラウンド俳優にとっては、抜擢ということになるだろうか。
 テレビドラマのタイトルは、「ネコババの女」。実際に起きた事件をモチーフにした、いわば実録ものとでもいうのだろうか。
 その台本のキャスト表に、ある俳優の名前を発見した時、ぼくは思わず「アッ!」と声を出してしまった。
 そこには、小さい頃からスクリーンで見続けたあこがれの人・殿山泰司さんの名前があったのだ。(TO BE CONTINUED!)