「大杉さん、すごいですねぇ。16本でした」
「あっ、そうですか」
雑誌の編集者に教えていただいた。ぼくが今年出た映画の本数だ。1月の黒沢清監督「カリスマ」で始まり、12月に公開される石井克人監督「PARTY7」で終わるらしい。16本という数字がすごいのかどうか、ぼくにはわからない。会社員なら「大杉君、今年もよくやってくれたね。ごくろうさん!」ということになるのだろうか。
正直に告白すれば、出演した本数はどうでもいい。やはり量より質だと感じている。
世の中から見ると、映画やテレビに露出し続けることが、俳優として<売れている>状態なのだろう。そういう状態にあっても、いつか<売れなくなる>という恐れや不安がつきまとってくる。かろうじて現在の忙しさが、そういう気持ちを紛らわせてくれているにすぎない。
ほんの数年前の映画や2時間ドラマの再放送を見ていて「アア、こんな俳優さんいた……今どうしてるの」と感じるのはぼくだけではないはずだ。決して人ごとではない。
もちろん<売れる・売れない>という図式だけで俳優の仕事を考えているわけではない。現場で過ごすことのほうが、机上の学習より勝っていることはいうまでもないのだ。
以前、韓国の俳優さんとお会いしたとき、彼はこう言った。
「ぼくは、韓国で年間2~3本の映画の仕事だけで過ごしています。漣さんはどうですか」
「アッ、ぼくですか。ええっとですね。年間数十本の映画とビデオシネマ、テレビの連続ドラマそれからCMでしょ・・・・・・あとはそうそう声(ナレーション)だけの仕事もやっています」
彼は、外国人特有の大きなリアクションを見せた。しかしこれが日本の俳優の現実なのだ。
こう書き終えたところに1本の電話が入った。マネジャーの高岡さんだった。
「大杉さん、ワンシーンしか出番はないんですが、Yさんがどうしてもって。インテリの浮浪者の役なんですけど、どうします?」
「うん、いいよ」
即答だった。また、今年の出演本数にプラスワンされた。